2019年7月7日日曜日

田中隆之『総合商社の研究』が指摘する産業調査の意義(2014/4/27)

 田中隆之『総合商社の研究』。明日の大学院ゼミに備えて通読した。総合商社の概念,戦前,戦後の歴史と現在,研究史についてコンパクトにまとめられている。おそろしく便利で,おそろしくわかりやすい。こんなにきれいにまとまっていていいものだろうかと,かえって不安になるのだが,それは,単に私の性格がひねくれているからか。専門家の意見を聞きたい。

 商社論としての評価とは別に,著者が「おわりに」で以下のように述べていることには,大いに共感する。

「高度成長期以降,1990年代までの日本では,長期信用銀行3行,そして日本開発銀行(現日本政策投資銀行)など政府系金融機関の調査部,産業調査部が,わが国の産業調査を担っていた。それは,個別の産業・業界を長期的,構造的な観点から調査し,将来展望を行うという性格のもので,現在の証券アナリストが行う,主として短期の業績調査などとは一線を画するものであった。しかし,バブル崩壊後の金融危機を経て,長信銀が業態として姿を消し,政府系金融機関も民営化や統合で縮小するに及び,かつてのスタイルの産業調査は,ほとんど日本から姿を消してしまった。
 今回,はからずも私が書かせていただいた本書は,まさにこのスタイルの産業調査そのものであるといってよい。あらゆる産業・業界において,その来し方行く末を客観的な眼で見つめることは,将来の発展のために不可欠である。もはや産業調査を体系的,継続的に行う担い手は存在しないが,今回のようなアドホックな形においてでも,産業調査が『復活』することを強く望むものである」。

 ただ一点のみコメントしたい。大学の研究者も産業調査を行ってきた。それは今も生きている。大学教員となった著者が発表したこの本のように。

田中隆之『総合商社の研究:その源流,成立,展開』東洋経済新報社,2012年。

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