2019年7月7日日曜日

アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』を読んで(2014/4/6)

 アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』(原題Too Big to Fail)は、タイトルの通り2008年のリーマンショックのさなかに、経営危機に陥った金融機関や連邦政府、連邦準備銀行の関係者やそれに連なる人々が何を思い、どのように行動し、どのような帰結に至ったのかを追跡したルポルタージュだ。つまり、ポールソン財務長官、バーナンキFRB議長、ガイトナーNY連銀総裁(いずれも当時)や、リーマン・ブラザーズ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの経営者たちが登場人物のドラマである。アメリカ経済と金融の研究から遠ざかって久しい私は(※)、仕事としてでなく、息抜きとして寝る前や休日に読んでいたが、文庫版上下で940ページをまったく退屈せずに読んだ。

 本書では、書類は乱れ飛び、メールは行き交い、電話は鳴り、ブラックベリーでメールが交換され、罵声は飛び交い、スーツやステーキや自家用ジェットや専用車や会議室は登場する。しかし、恐慌によって家を失い、職を失い、生活の糧を失う人々の姿は、(クビになったリーマンなどの経営者を除けば)、本書には直接には全く登場しない。しかし、ここで起こっていることから無数の人々が影響を受けていることは示されているし、まさにそれが現実だ。

 本書でのエリートたちの息詰まるやり取りに世界の命運がかかっているということは確かなら、全体として馬鹿げたしくみに世界が委ねられているということも確かなのだと、私は思う。優れた知性と行動力を示す人々のやり取りは魅力的であるが、もし人類より優れた知性を持つ宇宙人が観察していたら、「いったい、こいつら何をやってるんだ」と言うだろうなとも思う。

 ちょっとだけ具体的な点。アメリカ政府と言えども金融機関の経営や合併に介入する。その仕方が具体的にわかって面白い。会議室に金融機関のCEOを集めて脅すという、19世紀のようなやり方が、いざというときは21世紀でも起こるのだ。さらに細かい点を言うと、ポールソン財務長官が介入するのはわかるとして、ガイトナーNY連銀総裁が、金融機関同士の合併を促すために経営者に電話するというのには驚いた。

※大学院でごいっしょした方以外には信じがたいかもしれないが、私の修士論文は「1970年代以降のアメリカにおける企業合併運動」であった。

アンドリュー・ロス・ソーキン(加賀山卓朗訳)『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)追い詰められた金融エリートたち』早川書房,2012年。
アンドリュー・ロス・ソーキン(加賀山卓朗訳)『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)倒れゆくウォール街の巨人』早川書房,2012年。





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