2018年12月20日木曜日

松井和夫先生のこと (2014/10/19)

 1988年,日本証券経済研究所大阪研究所の松井和夫主任研究員が連続講義のため東北大学に来られ,前期課程院生だった私に研究指導をしてくださった。その時にいただいた,論文原稿のコピーが出てきた。この論文は後日,『季刊経済研究』11巻2号に掲載された。肉筆とはいかないが,貴重なものである。この時の指導まで,私は「M&Aはマネーゲームになっていて,産業再編としては無意味化している」という先入観に固まっていた。松井氏は,そうではなく,産業再編の論理から生じたM&A&Dは現に行われていること,投機化するに際しては,産業再編の論理が投機に逆転していくメカニズムが繰り返し作用しているのであり,その逆転のメカニズムをつかむべきことを説いてくださった。その原理的な根拠としては楊枝嗣朗『貨幣・信用・中央銀行』を参照することを勧めてくださった(※)。この指導で私の修論の視角は大きく変わった。そして,M&Aにせよ為替にせよ株式にせよ,「投機だ,マネーゲームだ。市場の機能は無意味化している。だから通常の経済学はもう意味がない」式の批判はやめることにした。

 松井氏は,研究所の『証研レポート』に毎週(毎月ではない)アメリカの金融・証券情勢に関するレポートを書きまくり,さらに論文誌『証券経済』にもたびたび執筆する看板研究員で,実務の世界に大いに貢献されていた。しかし,実は大学院では名和統一ゼミ出身で(※),この写真の論文のタイトルに見られるようにマルクス経済学に造詣が深く,ヒルファーディングやレーニンが述べた金融資本とは,つまり産業と銀行のどういう関係のことなのかを,多様な諸現象のうちに探求されていた。同じマルクス経済学の中でも,現代の金融の諸現象をただ「マネーゲームだ」と非難して終わる研究もあれば,松井氏のように,産業再編の媒介,恐慌の価値破壊機能の代替,決済システムを通した情報集中を基礎とする銀行の産業政策の表現,など,分析的にとらえようとする研究もあったのだ。

 松井氏は1991年に大阪経済大学の教授になられ、2004年に逝去された。私にとって,価値観の転換につながるほどの影響を与えた,忘れがたい先生の一人である。

松井和夫氏略歴・業績目録(『大阪経大論集』55巻5号)
http://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/5125

※(マニアックな注)ということは,大阪市大の院生ではあったが,貨幣・信用理論では同大学で絶大な影響を持っていた川合一郎理論を採用されなかったということだ。どちらかと言えば九州大学の岡橋保理論に近かったようである。そのせいか,東北大学での懇親会では村岡俊三先生と話が合っていたことを覚えている。

2019/12/20 表現を修正。

続稿。「続・松井和夫先生のこと」Ka-Bataブログ,2018年12月27日。


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