12月21日に放映されたNHKスペシャル「メルトダウン File.5 知られざる大量放出」を録画で見た。衝撃だった。2011年3月11日の東日本大震災後に福島第一原発事故によって放出された放射性物質のうち,75%は3月15日午後以降に放出されていたというのだ。
これまで私は,大量放出はメルトダウンと1,3号機の建屋爆発,および2号機の圧力調整プール破損時に生じたし,とくに2号機の破損時の放出がもっとも多かったと,公表情報から思っていた。当時のゼミ生にもそう伝えてきた。しかし,これらは,15日午前までの放出に限れば正しかったが,放出の全体を視野に入れるならば,正確ではなかった。
今回報道されたことを要約すれば,以下のようになると思われる。
*3月15日の夜に全体の10%を占める大量放出が起こっていた。その原因は3号機5回目のベントであった。ベントの際に放射性物質は希釈されるはずが,1)圧力調整プールの温度が高いためにプールで希釈されず,2)それまでのベントで配管内に付着していた放射性物質が押し出されたために,かえって大量の放出を招いた。
*電源喪失時期に緊急措置として消防車による1-3号機への注水が行われたが,建物内の多数の箇所でポンプが動かず,水は別方向に漏水し,ほんの一部しか圧力容器内に届いていなかった(これはこの番組の以前の回で知っていた)。そして,少量の水を注水したことは,核燃料を覆うジルコニウム合金管を化学反応で加熱させ,核燃料の損傷を加速していた。そのため,放射性物質の放出を止められず,むしろかえって増加させてしまい,また長引かせることになった。
*4号機の使用済み燃料プールに水があるのか,ないのかの判断により,復旧作業の優先度を決めねばならなかった。水がないならばプールへの注水を優先しなければならないが,水があって,干上がるまで時間があるならば電源回復によって1-3号機への注水量を増大させ,冷やし,かつ放射性物質の放出を止めることを優先しなければならなかった。3月16日,福島第1原発の現場では自衛隊機が撮影した写真により水があると認識し,よって電源回復を優先と判断した。しかし,15日に発足した政府と東電による統合本部に決定権が移っており,統合本部は注水優先と判断した。それは,アメリカ原子力規制委員会などが,プールに水がなく,より大規模な汚染が起こるという最悪のシナリオを想定して対処すべきであるという見解を示したことに影響されたものであった(ただ,この意思決定プロセスは番組内でよく検証されたとは言えない)。結果として4号機プールに水は入ったが,電源回復が遅れた分だけ放射性物質の放出期間は長引いた。
緊急の判断で最善ないし次善の策と思ってやったことが裏目に出るということが重なっていた。しかも,私の素人判断だが,どれも,その場で問題がわかっていれば回避できたとも言えないように思う。第5回ベントの時に装置の問題点に気が付いていたら,ベントを中止した方がベターと意思決定されただろうか。あるいは,大量放出のリスクを軽減させる補足措置がとれただろうか。また,漏水に気が付いたとしても,対処ができただろうか。3月16日時点の判断として,プール注水を優先したことは間違いと言えるだろうか。専門家の意見は必要だが,わかっていてもできることは限られていたのではないか。
今回の報道内容が示唆するのは,その場の状況における判断がまちがいだったから,ただしい判断をすべきだったということではないと思う。実際,番組もそう言う方向に編集されていたのではない。むしろ問題は,これほどに困難な判断を必要とする状況をつくり出してしまったことであり,また,その判断の帰結が3年たってようやく明らかになったということであり,さらに,まだ明らかになっていない事実もあるだろうということだ。
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