以下は,2018年7月25日の午前0時57分にFacebookに投稿したものの転載です。飯島監督逝去の報を受け,哀悼の意を込めて掲載します。
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52年前の今夜(厳密にはもう昨日)である,1966年7月24日。『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」が放送された。宇宙忍者バルタン星人の登場である。
「侵略者を撃て」は第2話だが,製作は第1話で,しかも製作中はまだ第1話のシナリオが固まっていなかった。そのため,脚本を千束北男の名前で書き,監督も務めた飯島敏宏氏は,このドラマがどういうものなのかをつかみかね,ストーリー進行も演出も手探りで行わねばならなかった。つまり,いまの視聴者なら知っている,宇宙人や怪獣が出現して地球を守る防衛隊が攻撃し,ついに力及ばずにピンチに陥ると謎の巨大ヒーローが現れ,敵を倒して大団円といった黄金パターンがまったく存在しない状態で,その脚本と演出を最初に本番として構築したのが飯島監督だったのだ。私はこの黎明期のたいへんさを,飯島監督のご本で初めて認識した。
面白いことに「侵略者を撃て」には,その後,上記のような黄金パターンになった部分の他に,いろいろな試行錯誤による特異な部分がある。特撮シーンにもあるのだが,ここで注目したいのはストーリーだ。
科特隊のムラマツキャップは,科学センターを占拠したバルタン星人に対して,「話し合いをしてみようと思います」と言い,防衛会議で呆れられる。そして,アラシ隊員に憑依したバルタンの口からは,彼らの星が「発狂した科学者の核実験」(原文ママ)がもとで死滅してしまったという悲劇が語られる。
さらに,「われわれは地球に住むことにする」というバルタンに,「よいでしょう」と言うハヤタ(ウルトラマン)。「君たちが地球の風俗習慣になじみ,地球の法律を守るならばそれも不可能ではない」。しかし,交渉は決裂する。「われわれは地球をもらう」と言って巨大化したバルタン星人はウルトラマンのスペシウム光線で倒される。
この試行錯誤の展開において,飯島監督は核戦争の危機という冷戦下の時代背景を強く意識していた。バルタン星人という名称も,かつてバルカン半島が欧州の火薬庫と呼ばれたことからつけた名前だったのだ。ウルトラマンシリーズは,宇宙人をむやみに悪役と決めつけて即時攻撃するという話ばかりではない。そういうエピソードが多数派になってしまったことも否めない。しかし,原点において意識されていたのはファーストコンタクトの難しさであり,戦争の悲劇であり,それが抜き差しならぬ対立を誘発するということだった。
飯島監督は,この時はサブタイトルの通りに侵略者を撃ちまくる。防衛会議では核ミサイル「はげたか」をバルタンに打ち込むことが提案される。場所は東京のど真ん中なのに。ムラマツは「はげたかで破壊できなかったら」と問うものの,核兵器を東京で使用した場合の破壊や放射線被害は全く意識していない。あげく,巨大化したバルタンに対して本当に撃つ!繰り返すが,核ミサイルを東京のど真ん中のビル街で!それでもバルタンは死なない。一大事だ。いや,他にもかなり一大事になっているのではないかと思うところだが,何しろ侵略者との戦争だ。
あげく,巨大バルタンを倒したウルトラマンは,地球への移住を図った20億3000万のバルタン星人が乗っている宇宙船を透視能力で発見し,これを宇宙へ運び去り,爆破処分する。20億3000万は侵略者として皆殺しだ。
抜き差しならぬ戦いになればこうなるだろう。飯島監督はそう思って演出したのかもしれない。しかし,そこで話は終わらなかった。飯島監督は,その後もバルタン星人を画面に登場させる。ウルトラマン第16話「科特隊宇宙へ」では製作サイドの要望でやむを得ず出したのだそうだが,その後は,自ら,繰り返し繰り返し登場させる。産業活動によって自らの星を亡ぼしてしまった悲劇の宇宙人として。そして,地球を再び襲うときは,「人間も同じことをしているのではないか」と問いかける存在として。
2006年2月。『ウルトラマンマックス』第33,34話「ようこそ!地球へ」は,飯島氏が脚本,監督を手掛けた,これまでのところ最後のバルタン星人のストーリーだ。ここではバルタン星人内に過激派と穏健派が存在する。過激派ダークバルタンの地球侵略計画を察知した穏健派のタイニーバルタンは地球の危機を救いにやってくる。タイニーバルタンは自らの姿を醜いと言い(あの姿は戦闘服でなく身体なのだ),「ぼくたちバルタン星人が,こんなみじめな進化をしなければならなかったのは,繰り返された核戦争の結果なのです」「ダークバルタンは地球を侵略しようとしているけど,穏健派バルタンは,自分たちの破綻したバルタン星を修復しようと努力しているんだ」と語る。そして,あっさりと美少女に変身し,動揺する田舎の少年とともにダークバルタンの計画を阻止しようと行動する。まあ,このあたりは平成の番組だ。
経過は省くが,結局美少女,いやタイニーバルタンは,ウルトラマンマックスを倒す勢いだったダークバルタンを,銅鐸の平和の波動で(佐々木守氏や実相寺昭雄監督も好んだ縄文文化論の影響か)説得することに成功する。バルタンたちは母星を再建すべくバルタン星に帰っていく。「自分たちの星に帰り,理想的な天体であったかつての美しいバルタン星を取り戻すために」。防衛隊DASHのヒジカタ隊長は言う。「互いに相手を理解すること,和み,平和。今,地球にとって一番必要なことだ」。
バルタン星人が登場する個々の作品への評価は様々だろう。街中での核兵器ぶっぱなしもどうかと思うが,美少女が活躍して解決すればよいというものではないかもしれない。しかし,ここで確認したいのは,飯島敏宏監督はバルタン星人を,もともと侵略者として撃たれるだけの存在にしたくはなかったし,どうしてもそれで終わらせたくなかったということだ。地球人と和解し,母星の再建のために努力する。バルタン星人はそこにたどりついたのだ。
飯島敏宏+千束北男『バルタン星人を知っていますか? テレビの青春,駆け出し日記』小学館,2017年。