2019年1月17日木曜日

宮部みゆきミステリーにおける「ピュアな少年」のフェードアウト(2013/12/29)

 宮部みゆきさんの現代ミステリはおそらく4分の3くらいは読んだと思う。いつも楽しく読んでいたが、ある時期まではどうしても気になることがあった。物語のどこかにピュアな人間、とくに少年を置いて、それを価値基準として世界が解釈されていることだった。そのために、勧善懲悪とは言わないが、単一の価値観によって物語が裁断される傾向があり、そこに納得がいかなかった(急いで付け加えると、『火車』にはそういう単純化はなかったと思う)。
 しかし宮部さんは、『理由』あたりから、様々な価値観、様々な人生を交錯させて描くようになった。話は多層的になり、複雑な現実を複雑なままに描くようになったと感じられた。直木賞を受賞されたのももっともなことだ。
 杉村三郎シリーズは、大コンツェルンの令嬢と結婚してコンツェルンの、ただし目立たない職に就いた男性が主人公である。その性格はまじめで正義感が強く、いわばピュアであるが、社会的な立場は複雑かつ中途半端、すわりの悪いものである。ピュアな人間がそのまま現代社会で生きることはできないということを作者が悟り、そのことがもたらす問題を自覚的に描こうとしたからではないだろうか。

宮部みゆき『ペテロの葬列』集英社,2013年。

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