佐々木譲『回廊封鎖』集英社、2012年8月と、同じ作者の『地層捜査』文藝春秋、2012年2月とは、近い時期に出版されているが、物語の色調は鮮やかなほどのコントラストをなしている。前者は消費者金融問題が背景をなし、六本木の超高層ビルで開催される国際映画祭が舞台となり、香港から来日する実業家をめぐる暗殺計画が展開する。決着は超高層ビルの回廊でつけられる。後者は公訴時効の廃止が背景となり、15年前の老女殺人事件の再捜査が、東京の一つの町が舞台となって繰り広げられる。捜査のために主人公の刑事は、その町をひたすら歩き回り、失われた過去を掘り下げていくことになる。『回廊封鎖』では国際的な舞台の中で現在の主人公たちが直面する日本社会の冷酷さが浮かび上がり、『地層捜査』では一つの町の地層のように積み重なった出来事を掘り下げることで、主人公は過去の日本社会の鬱々としたやるせなさに直面する。
両方を読んでどちらに魅かれるによって、読者は自分の時間と空間に対する感覚を知ることになるのかもしれない。私は後者に魅かれた。私はアジア産業の現状分析家であり、地域の歴史研究に方向転換したいと思っているわけではない。しかし、失われた過去というものへのこだわりが強く、現在を過去からの帰結とみる傾向が強いことは事実である。これが心情告白なのか、学問的方法論なのかはわからないが、二つの犯罪・警察小説を読んで、自分の持つ空間・時間感覚に気がつかされたことは事実である。この2冊のコントラストに何事かを感じる人が他にもいるだろうか。
佐々木譲『回廊封鎖』集英社文庫,2015年。
佐々木譲『地層捜査』文春文庫,2014年。
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