2018年11月8日木曜日

北方領土問題か千島問題か (2016/10/5)

 私はいわゆる「北方領土」問題について以下のように考える。

*ほんらい,サンフランシスコ平和条約で「千島列島」を放棄したのが誤りだった。というのは,千島列島は大日本帝国が戦争の結果獲得したものではないからだ。択捉島以南が日本領というのは,1855年の日露和親条約において確認され,ウルップ島より北が日本領というのは,1875年の樺太・千島交換条約により日本の領土となったものだからだ。いずれもロシアとの外交交渉の結果だ。戦争の結果として割譲させた樺太とは異なる。だから第二次大戦後も放棄する必要はなかった。日本は侵略の結果獲得した領土を(それのみを)放棄し,連合国は領土拡大を求めないという,戦後処理の原則に反している。それが,ヤルタ会談以来のスターリンの領土膨張主義的要求により条約に盛り込まれてしまい,そこに屈服して放棄してしまったものだ。千島列島を日本に放棄させて旧ソ連に帰属させたこと自体が,連合国の戦後処理の原則に反しており,「戦争に勝ったら敵の領土を獲得してよい」という帝国主義思想の残滓だ。この点で,旧ソ連が批判されるべきだ。

*放棄した「千島列島」は北千島(ウルップ島より北)と南千島(択捉島,国後島)を含むのが,北方領土返還運動以前の日本を含めて世界に通じる用語法だ。だから,日本は択捉,国後を放棄しているとみるべきだ。しかし,同じ基準で,歯舞群島,色丹島は北海道の一部と見ることができる。だから,歯舞,色丹はロシアによって不法占拠されていると見るべきだ。
 実はある時期まで日本政府も,このように「千島列島には択捉,国後が含まれる。ただし,歯舞,色丹は含まれない」という理解をとっていた。ある時期から「千島列島には択捉,国後は含まれない」と言い出した。しかし,この解釈には無理がある。

*したがって,日本政府が2島返還=歯舞,色丹を返せと言うのはまったく正当だ。その一方,「北方領土」=択捉,国後,歯舞,色丹を返せと言うのは,サンフランシスコ平和条約の現行内容を維持したままだと理屈が通らず,実現困難だ。「北方領土」=択捉,国後,歯舞,色丹というくくり方をしたことは,領土返還交渉を困難に追い込んでおり,歴代自民党政権の責任だ。

*そのため,外交のすじ論としては,二島の即時返還を主張しつつ,サンフランシスコ平和条約の千島列島放棄条項を破棄した上で,全千島変換を要求するのが適切だ。

*この場合,「日本は侵略の結果獲得した領土を,それのみを放棄し,連合国は領土拡大を求めない」という戦後処理の原則を,日本自身が高く掲げる必要がある。つまり,サンフランシスコ体制の本来の精神に日本政府が立ち,旧ソ連・ロシアによるそこからの逸脱を批判するという立場に立つことが必要だ。歴代自民党政権が,侵略戦争の清算を伴うこの立場に立ちきれないところに,千島問題が混乱する隠れた原因の一つがある。

*ただし,以上の二項目は理想主義的であり,すぐには実現しそうにない。現在の政治の文脈に譲っていえば,とりあえずどんな政権であれ,2島の先行返還を交渉することは妥当だと思う。2島については,ロシアが占拠する根拠がまったくないからだ。1956年の日ソ共同宣言交渉時には,ソ連(当時)と日本の間に平和条約が締結された後に,ソ連が歯舞群島と色丹島を引き渡すという合意がなされている。この合意は重要だが,平和条約締結前であっても,二島返還を要求することは日本に正当性がある。しかし,択捉島,国後島を加えると「それはサンフランシスコ平和条約で放棄しているではないか」という議論に反駁することが困難になり,膠着する。

*まとめると,すじみちからすれば,第1段階2島即時返還,第2段全千島,というステップにするのが妥当だ。以上の考えは,日本共産党の主張とほぼ同じだ(※)。

*もちろん,政治は力関係と駆け引きによって左右されるから,それ以外のステップがとられることはあり得る。力関係次第では,まったく返還されないことも,4島返還も3島返還も2島返還も,4島返還してもらってロシアに租借というのも,何でもあり得る。それが政治だ。
 しかし,政治には力関係だけでなく正当性も作用する。力関係だけで揺れ動く国境線は,正当化され得ないものだ。逆に,力関係の結果がいったん正当化されれば,それは動きにくくなる。それでよいのかどうか,そうした発想で紛争処理をすることに危険はないのかどうかは,常に問われなければならない。4島返還論は,力関係と駆け引きに依拠したものであり,戦後処理の原則に立っていないことに注意しなければならない。歴史的に正当化可能な返還論,日本が戦後処理の枠組みの正当な部分に依拠し,不当な大国主義に抵抗するすじみちを通した返還論は,第1段階2島,第2段階全千島だと私は思う。

*ただし,私のこの意見は日本(大日本帝国,日本国)とロシア(旧ロシア帝国,ソ連,ロシア)と,それをとりまく連合国の戦後処理という枠組みでしかものを考えていない。もともとアイヌが住んでいた土地をロシアや日本が占拠したのではないか,という論点を含めると,また違う見方も必要かもしれない。その点は保留する。

※意外と感じる人も多いかもしれないが,日本共産党はある時期から旧ソ連と中国に対する独立性を強め,旧ソ連に対してもこのように主張していた。

0 件のコメント:

コメントを投稿