2018年11月8日木曜日

プーチンの平和条約呼びかけの問題点と千島列島(北方領土)問題解決の方向 (2018/9/13)

 2018年9月12日,ウラジオストクにおいてプーチン大統領は安倍首相に対して,「平和条約を、今ではないが今年が終わる前に、前提条件を付けずに締結しよう」と唐突に呼び掛けた。同日,日本では菅官房長官が「政府としては北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する基本方針に変わりはない」との見解を示した。

 日本とロシアの平和条約交渉は,長期にわたり暗礁に乗り上げている。理由は簡単で,日本の「北方四島の返還を合意してから平和条約を締結する」という主張に対して,ロシア側が同意する見通しがないからだ。もともと,世界のほとんどの国にとって,いわゆる北方四島のうち択捉島,国後島は「千島列島」の一部なので,サンフランシスコ条約により日本が領有権を放棄してしまったとみなされている。日本政府は,なぜなのか今に至るまで私にはその理屈が全く理解できないのだが,ある時期から「択捉,国後は千島ではない」と言い張って返還を要求している。だが,国際的に無理な解釈なので,旧ソ連もロシアも応じない。もし,ロシアが経済開発上困窮していて日本の援助をぜひとも必要としているなどの弱みがあるならば,政治的妥協において四島返還が実現する可能性もゼロではない。事実,1993年の東京宣言では,「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題」を解決するように交渉しようとの合意が発表された。しかし,ロシア経済が市場経済化直後の混乱を脱し,ロシア政治が大国主義化を強めている今,ロシアと日本の関係は日本の経済的優位がものを言うようなものではない。交渉したところで,ロシアが譲る見通しは全くない。

 だから,プーチンの「前提をつけずに締結しよう」に対して,日本政府が「まず四島を返せ」というのは無理すじに過ぎず,話をもとの膠着状態にとどめるだけであろう。しかし,ならばプーチンに同意すればよいかというとそうではない。

 本来,性質が異なるのは「北方領土と北千島」ではなく,「歯舞群島,色丹島と千島(択捉,国後を含む)」だ。前述のように,日本は千島をサンフランシスコ条約で放棄してしまった。しかし,歯舞,色丹は歴史的に明らかに北海道であって,これを「千島」とする見解は学術的にどこにもない。旧ソ連とロシアが行っていることは国際法上の根拠がない不当占拠なのだ。日本が返還を要求するのはまったく正当だ。実は,旧ソ連もこの点では譲歩し,もう62年も前の1956年に出された日ソ共同宣言で,平和条約締結後に歯舞,色丹を日本に引き渡すことに同意している。この共同宣言は,一時はソ連により一方的に無効を宣言されたりしたが,結局,その有効性は2001年のイルクーツク声明で確認されている。

 プーチンは今回,日ソ共同宣言にも言及し,「この宣言の履行を日本側が拒否した」としたうえで,「前提をつけずに締結しよう」と述べている。これは,日ソ共同宣言も前提とせずに締結し,領土問題はすべてその後に話し合うということだ。つまり,プーチンはこれまで以上に強硬なことを言って日本に譲歩を迫ったのだ。この先,「二島返還も拒否し,無前提締結も嫌だというならば,平和条約の締結を妨げているのは日本だろう」と言い出しかねない。

 日本政府が「まず,四島を返せ」という主張に固執すると,ロシア側にまったく応じてもらえないどころか,揚げ足をとられる。この膠着状態から前進する道はあるのか。

 私は,「北方領土」問題は,「北方領土と千島(択捉,国後を含まず)」という線引きでは政治的僥倖がない限り解決しないのでこれを改め,「歯舞群島・色丹島と千島(択捉,国後を含む)」という線引きに切り替えるべきだと思う。

 その第一段階は即時の平和条約締結と二島返還だ。日ソ共同宣言通り,平和条約を結んで歯舞,色丹をその時点で返還させるのだ。これは,日本側が二島返還に方針を変更すれば正当な主張として通ることだ。日本の関係者の間では「四島一括返還」が絶対視されており,「二島返還」論がタブーであるためになかなかこの議論ができない。しかし,こうしない限り前進ができないのであり,押し問答が続くうちに,今回のプーチン発言のようなトリッキーな提案をされてしまうのだ。

 第二段階は,長期的な全千島返還要求だ。なぜそこまで言うかというと,千島列島は北千島を含めて,大日本帝国が武力で侵略したり,戦争の結果として割譲させたものではないからだ。だから,第二次大戦で敗れた後も,放棄する必要はなかった。なのに,ヤルタ会談での米ソ合意により引き渡しが勝手に決定され,日本に押し付けられたに過ぎない。日本は侵略の結果獲得した領土を放棄し,連合国は領土拡大を求めないという,戦後処理の原則に反している。サンフランシスコ条約の千島放棄条項は,敗戦国だからと言って不当に押し付けられたものだ。私は日本がアジアに対して侵略国であったことを認めるが,侵略国だからと言って何をされてもやむを得ないわけではない。連合国の中にあった大国主義も批判されねばならない。千島問題は,原爆投下とともにその事例だ。

 しかし,サンフランシスコ条約をそのままにして返還を要求することは不可能だ。この条約の千島放棄条項が不当なものであったこと,これは廃棄されるべきであることを国際社会に訴えていくしかない。それと同時に全千島返還をロシアに要求すべきだろう。

 私は,この政策こそが,1)国際法にかなっており,2)日露の平和条約早期締結に貢献し,3)旧ソ連の行った不当占拠を明らかにし,4)かつて大日本帝国が行った侵略や植民地主義をあいまいにすることなく,連合国に含まれていた大国主義をも明確にする,均衡のとれた歴史観を広げることに貢献すると信じる。

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