2018年11月10日土曜日

「同一労働同一賃金」を推進するには「職務給」を拡大することが必要 (2016/4/12)

 『日経新聞』の安藤至大氏による同一労働同一賃金の解説に,romuyaさんがコメントしているものです。元の記事は有料会員限定なのでこちらをシェア。全部賛成ではありませんが,問題の所在をよく教えてくれるという意味で有益です。
 私の意見では,同一労働同一賃金と言うのは,つまり「仕事」をできるだけ客観的に定義して,その「同一の仕事」をする「同一の労働」なのだから同一賃金だという風にしか,考えようがありません。ですから,職務給でないと厳密には実施できないと見るべきです。
 これを無理くり否定しようとする左右問わず人が多いので困ります。
 年功賃金は,ほんとうに年齢や勤続に対して払っているのであれば,「同一労働同一賃金」になるはずがない。「同一勤続年数同一賃金」にしかなりません。また,ぼんやりとした潜在能力に対して払っているのだとしても,それはどんな仕事をしているかとは関係ないわけだから,「同一労働同一賃金」になるはずがない。「同一能力同一賃金」にしかなりません。「同一能力」ならよいではないかと言う人がいるかもしれませんが,その「能力」がぼんやりとした測定困難なものであるから問題なのであり,このぼんやりした「能力」で現在の賃金の男女差や正規・非正規の差は到底正当化できません。
 もう少し実態に即した議論として,「一見同一労働でも,転勤や配置転換があるかどうか,残業要請に応じるかどうかで違ってくる」から,同一労働同一賃金を固く考えなくてもよいという主張があります。しかし,転勤や配置転換に「人」の側が応じるかどうかは,いまやっている「仕事」=労働の問題ではありません。「職務・勤務地限定の契約」の人がやっているのか,「無限定で会社命令に応じる契約」の人がやっているのかの問題であり,それによって労務管理する側が便利かどうかという問題です。これをあえて「能力」と言いたいならば,「命じられた仕事や勤務地を幅広く受け入れて対処する能力」となるでしょうが,もうそうなると「どんな仕事か」と関係なくなります。この議論は,「どんな仕事か」の境目を客観的に測定せずに,「何でもできる人を確保したい」と言う,従来の日本の労務管理の問題点を引きずっています。
 同一労働同一賃金に持っていくには,職務給が必要です。実は,日本でも職務給は広がっています。「えっ?」とお思いの方もいるでしょうが,実は非正規雇用は「○○の仕事でいくら」となっている場合が正規より多く,雑な形ではあっても職務給なのです。つまり,非正規の間だけに適用される,正規との間に構造的に格差がついている職務給です。これは広がっている。ただ,日本で正規雇用の労働者を今すぐ全面職務給に移行するのは難しいでしょう。
 ならば,「同一労働同一賃金」の推進論は,実際のところ何をめざせばよいか。これまでもある程度行われているように,賃金体系(種々の種類の給与・手当からなる賃金の構成)の一部に,仕事は仕事としてきっちり測定した,職務に基づく「同一労働同一賃金」の部分を設定すればよいのです。これは正規も非正規も同じ物差しで測らねばなりません。その上で,「職務・勤務地限定の契約」か「無限定で会社命令に応じる契約」かの違いについて,後者にプレミアムをつけます。一方で,漠然と,何に基づいているのかわからない「基本給」や,ぼんやりとした能力による「職能給」はやめ,「年齢給」「勤続給」も縮小します。男女差別は論外。
 どこまでは労使自治,どこまでは規制によって行えるかは相当な議論が必要です。しかし,10年後くらいをめどに,このような着地点をめざすのは,何とか実施可能ではないかと私は思っています。

「安藤至大先生の同一労働同一賃金解説」労務屋ブログ,2016年4月11日。

2016/04/12 Facebook
2016/4/17 Google+

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