2018年11月19日月曜日

日本共産党が「同一価値労働同一賃金」論を肯定したことを受けて (2014/10/24)

 日本共産党が女性差別解決に向けた長文の政策「女性への差別を解決し、男女が共に活躍できる社会を」を発表した。この中で,共産党は従来と異なる見解を一つ述べている。それは,私が「企業論」の講義で取り上げている論点とも絡んでいる。

 共産党は,今回,性別を利用とした差別の禁止,均等待遇,男女雇用機会均等法に「すべての間接差別の禁止」を明記することを主張している。ここまでは従来の同党の主張と同じであるが,次が異なる。

「まったく同じ職種でなくても,必要な知識・技能や経験,負担・責任などにもとづいて公正な評価を行えるよう,批准しているILO(国際労働機関)条約「同一価値労働・同一報酬」(100号)にもとづき実効ある是正をはかります」。

 これまで日本共産党は,「同一労働同一賃金」は主張しても,「同一価値労働同一賃金(報酬)」を主張することには否定的ないし警戒的であった。このことは,共産党中央委員会労働局のスタッフであった米沢幸悦氏による「女性差別賃金是正のたたかい-『同一価値労働同一賃金』 について-」 『労働運動』 No. 333,新日本出版社,1993 年 4 月号で明確に表明されていた。特にその際,職種の異なる労働の価値を横断的に絶対・相対評価することに否定的な見解が述べられていたのだ(※)。

 この経緯からすると,今回,日本共産党が,「同一価値労働・同一報酬」というILO条約の名前を挙げるだけでなく,「まったく同じ職種でなくても,必要な知識・技能や経験,負担・責任などにもとづいて公正な評価を行えるよう」にすることを主張し始めたことは,大きな政策転換と言える。

 社会運動論的に言えば,実際に性別賃金格差是正の運動に取り組んでいる人々の多くが「同一価値労働同一賃金」論を根拠にしているのであって,今回,共産党が従来の拒絶反応をあらため,現場の政策論に寄り添ったのだと考えられる。

 日本共産党の賃金論自体も検討課題ではあるが,それよりもここで提起しておきたいのは,誰であれ「同一価値労働同一賃金」論を主張した先に待ち構えているものだ。職種を超えた「同一価値労働・同一賃金」が理屈通りに実現できれば,「同じ価値の仕事をしているのに男女で賃金が異なる」ことはなくなる。しかし,この原則を理屈通りに徹底させれば,「同じ価値の仕事をしているのに年齢・勤続が異なるから賃金が異なる」こともなくなってしまう。つまり,「同一価値労働・同一賃金」は「年功賃金」と深刻な緊張関係にある(もちろん,現実の賃金体系の中では,年齢・勤続対応分と職務対応分が共存することがあり得るが)。つまり共産党であれ誰であれ,性別賃金格差に向き合おうとするならば,年功賃金とは何であり,それをどう見るべきかという問題にも同時に向き合うことが必要となるのだ。ここが考えどころで,私自身も,講義資料の作成にあたっても難儀したところだ。続きは別の機会に。

※米沢論文が引き起こした波紋と論争について,最近では以下の論文に紹介されている。
猿田正機「日本における『福祉国家』と労使関係」『中京経営研究』22巻1・2号,2013年3月。猿田『日本的労使関係と「福祉国家」』税務経理教会,2013年にも収録されているようだ(カタログ目次から判断。実物は未見)。
 なお,米沢氏がなぜ異種労働間の横断的評価に否定的であったかについては,それだけで長文になるためここでは触れられないが,日本共産党の伝統的な賃金観,過去に職務給反対闘争を行った経緯などと関係している。

「女性への差別を解決し、男女が共に活躍できる社会を――日本共産党は提案します」2014年10月21日、日本共産党。

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