本書は,著者の歩み(1-4),著者のキリスト者としての信仰(5-11),キリスト者としての社会的実践(12-22),礼拝における奏楽とオルガン(23-28)に関わる文章を選択して収録したものです。これまで出版されたバッハ研究,賛美歌研究とは極力重複しないようにしました。また,宗教学に関する学術論文は専門家向きなので対象から外し,日本基督教団の問題に密接にかかわる2編(9と10)だけを収録しました。このため,全28編のうち2編だけがやや難解ですが,それ以外は平易な文章になっています。著者との接点がキリスト教と社会運動のいずれか一方だけであった方でも,他方について知っていただくことができます。
著者は,文字に残してよいものとそうでないものを厳格に区分していました。例えば,教会で行ったお説教などは後者であり,ほとんど文字に残されていません。他方,講演は,場合によっては前者と扱い,記録を配布することも認めていました。このため,本書には,公表出版物には初めて収録される講演記録も含まれています。たとえば,冒頭の「現代における矛盾と差別」は,著者の1945年8月15日経験を扱っていますが,学生向けの講演であり,ガリ版刷りの,ぼろぼろになったわら半紙の冊子から編集しました。
以下の写真は,本書に収録された文章のうち,書物としては初めて一般公開される講演記録の冊子です。講演記録の一部は著者ホームページhttp://www.jade.dti.ne.jp/~jak2000/
でもご覧いただけますので,試し読みにご利用ください。
「現代における矛盾と差別」。1978年1月14日(土)に,日本キリスト教団学生センターで行われた講演内容に加筆修正したもの。著者の1945年8月15日経験のところを抜粋・編集しました。誤字・脱字や文脈の乱れたところに最小限の編集をかけ,事実関係を編注で補いました。読者の皆様には申し訳ないのですが,実は,それでも間違いは残っています。著者は陸軍造兵厰を海軍工廠ととりちがえていたようなのですが,編集過程でこれに気づかなかったのです。
「靖国神社と日本人の宗教心」。2006年3月6日,図書館九条の会学習会での講演。これは宗教学者である上に,前世紀より靖国神社国家護持反対運動などに従事してきた著者が,相当力を入れて学問的にも裏をとったうえで話しています。本人も自信があったらしく,テキストはウェブでも公開していました。個人的には,「靖国神社は日本の歴史で初めて味方だけ祀りました」という指摘が衝撃的でした。つまり,敵も味方も弔うとか,「死ねばみんな仏になる」といった日本の伝統とは正反対なのが靖国神社だというのです。
「礼拝と賛美」。1993年5月6日,日本キリスト教団松山教会にて。これもかなり力を入れた気配があります。講演記録冊子が2種類あって,この写真に写っているのは改めて打ち直したもののようです。
「『合同のとらえなおし』と日本基督教団の歩み」。1994年5月3日,日本キリスト教団九州教区総会における講演。日本基督教団と沖縄キリスト教団との合同に関わる問題がテーマ。
「オルガニストの心構え」。1985年8月22日,日本キリスト教団東北教区教会音楽研究会講義。本書では,著者の従来の音楽研究の本に収められていなかった,礼拝における奏楽とオルガンに関する論稿も収録しましたた。著者はこのテーマで論文(本書収録の「礼拝における奏楽の位置」)も書いていますが,講演の端々からすると,バッハ研究や讃美歌研究ほど自分はプロではないと考えていたのだと,私は推測します。しかし,むしろ信仰がない私がこの講演記録と別の「礼拝と音楽」を読んで面白かったのは,非常に実際的に,礼拝の運営,教会の運営に役立つ話をしようとしていることでした。著者は一方では倫理と論理を突き詰める人でしたが,他方ではたいへん実務的な人でした。二つの講演には後者の側面が出ていると思います。
1998年4月16日,日本共産党北海道宗教者後援会が開催した「信仰と科学の共同をめぐる講演会」の記録。本書では他の文章との重複を考慮して一部を削除し,抄録しました。
この講演は,著者が三つのことを,他の文章よりもはっきり語っているために,収録しなければなりませんでした。一つ目は,著者が信仰と自然・社会科学の関係をどう考えていたか,自然科学が正しいならば物理的には神様はいないことになるわけで,そこをどう考えていたかを,はっきり語っていることです。二つ目は,当初は社会党(当時)支持だったのにやがて共産党を強力に支持するようになった理由,学生運動を支援しながら新左翼は支持しなかった理由を,経過を含めて紹介していることです。三つ目は,マルクス主義・科学的社会主義にほぼ賛成した上で,人間理解でなじめない部分があるとも述べていることです(これは『3・11後を生きるキリスト教』でも書かれていますが)。
しかし,問題もありました。まず,いつ講演したかわからないのがネックでした。月日は書いてあるのに年が書いていないからです。しかし,講演と「全国宗教人・日本共産党を支持する会」の結成が同年であることが冊子の記述からわかるので,この「支持する会」の結成についての報道を探し出して解決しました。
次に,講演タイトルがないことが問題で,収録するために何かつけなければなりませんでした。「信仰と科学」とすればあたりさわりがないのですが,おそらく著者の本意ではないものになります。本意をあらわすのは「なぜ日本共産党か」でしょうが,そうするとその背後にある著者の信仰や社会観がにじみ出ないで政治一辺倒の文書に見えてしまいます。そこで組み合わせればよいと考えて「なぜ日本共産党か -信仰と科学-」としました。いささかためらいもありましたが,著者を知っている人は,賛否はともあれ川端純四郎は「聖書とバッハとマルクス」の人であり「教会と共産党」の人であったとわかっているから,まあこれでいいだろうと割り切りました。著者を知らずに書店で見たキリスト教信者の方がぎょっとするかもしれませんが,こればかりは勘弁願うしかありません。賛否を問わずご覧になって,著者と対話していただければと思います。
川端純四郎[2016]『教会と戦争』新教出版社。
2016/4/27および20165/7にFacebookに投稿した記事を再構成。文体を編集。
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