1996年に放映が開始された『ティガ』は最初はかなりぼんやりした,何をしたいのかわからない感じで始まった。しかし,第3話「悪魔の預言」での,ウルトラマン=光と対極にある影の存在キリエロイドの登場で,本気でつくっていることは感じられ,続いて第5話「怪獣が出てきた日」で,迫力ある怪獣掃討作戦,マスメディアを通すことでリアル感が出た怪獣災害が描かれ,かなりいけるのではないかという気がした。その後,回を重ねるにつれて調子が上がって行ったが,私は,上記2本や第25話「悪魔の審判」,第34話「南の涯てまで」,第43話「地の鮫」などの傑作をものしている脚本家が小中千昭氏であることに気がついた。
このあたりの背後にあった事情は本書で初めて理解できた。小中氏が番組に参加した時はすでに基本設定と右田万昌氏による第1・2話のシナリオはできていたそうで,氏は何本か個別の話を書くという姿勢で参加し,その後シリーズをまとめあげる立場に移行したそうだ。
実際,シリーズが進むと,第1・2話を書き,円谷プロ社員ライターでもあった右田万昌氏の脚本にトンチンカンなものが目立ったが,そのことはスタッフ内でも理解されたのか,小中氏や長谷川圭一氏が要所要所をおさえるようになり,見事な最終回で締めてくれた(最後の2話は右田・小中・長谷川氏の共同執筆というクレジットだが,本書によれば小中氏が最後にまとめたそうだ)。
「ウルトラマンはなぜ地球を守るのか」は,ウルトラシリーズ最大の難題の一つだ。佐藤健志『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』が政治問題にこじつけるというねじれた形で提起したこの問題に,私自身がずっとひっかかっていた。『ティガ』は,ウルトラマンは神でもなく,人間を守ってくれる他者でもなく,たった一人でたたかうべき者でもなく,地球に住む一人の存在であること,「人間は,みんな自分自身で光になれる」(最終回のダイゴ隊員の最後のセリフより)こと,しかしまた第44話のタイトルが示す「影を継ぐもの」にもなりうることを示して,この問題に一つの決着をつけてくれたように思う。私は当時そう思った。
小中千昭『光を継ぐために ウルトラマンティガ』洋泉社,2015年。
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