2018年10月25日木曜日

ベトナム中部における魚の大量死第12報:科学技術省がコークス湿式消火を問題にするのは的を射ているか (2016/7/8)

 ベトナム中部における魚の大量死問題第12報。魚の大量死を引き起こしたフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)からのフェノール,シアン化物,水酸化鉄排出の原因が特定されたと報じられている。ベトナム紙Tuoi Tre Newsが報じる科学技術省の記者会見結果では,原因は事故によりコークス湿式消火設備の排水が処理されないままに放出されたことと指摘されているようだ。
 製鉄所のシンボルと言うべき高炉では,石炭を蒸し焼きにしたコークスによって鉄鉱石を還元することで銑鉄が製造される。このコークスは,高炉より前の工程のコークス炉で,石炭を乾溜することによって製造される。炉から出てきたコークスは赤熱化しており,消火しなければならない。この伝統的な方法が,散水によって消火する湿式消火(CWQ)だ。水は蒸気となって消火塔から放散され,一部は排水となる。顕熱は回収できずに無駄となり,粉塵も飛散する。
 科学技術省のPham Cong Tac副大臣は,フォルモッサが技術転換を実施しなければならないだろうと述べている。湿式消火(CWQ)を乾式消火(CDQ)に転換することが示唆されている。
 現代的なコークス工場では,コークスをチャンバーに閉じ込め,冷たいガスによって消化する乾式消火(CDQ)が用いられる。顕熱はガスに回収され,発電などに有効利用される(これによって火力発電所からの電力購入を減らせるならば,CO2排出削減に貢献する)。FHSは当初CDQを用いる予定であったが,コスト節約のため途中からCWQに切り替えてしまったのだという。
 報道によれば,FHSにCWQのような古い技術を認可した責任をめぐって議論がなされているようである。
 私の見解。もちろん,一般論としては,現代の大型製鉄所では,省エネと環境保護のためCWQではなくCDQを用いることが必要だ。現在の日本のコークス炉ではほとんどCDQが用いられているし,中国でも新規設備にはCDQが義務付けられている。そして,FHSにライセンスを与えた際に,CDQを義務付けるべきだっただろう。
 しかし,今回の魚の大量死について,それが最重要問題なのかどうかは,よくわからない。
 まず,シアンがもっとも多く含まれるのはコークス炉からの排ガス,すなわちコークスガスであり,排水にシアンが含まれるとすればコークス炉ガスを冷却洗浄した排水に含まれるはずである。CWQで消火した際に水蒸気にならなかった水が主な汚染源になるのだろうか。疑問である。
 また,CWQではエネルギーの無駄と粉塵は避けられないが,排水処理をすれば今回のような事にはならない。つまり,CWQからの排水が問題だとしても,問題はCWQ自体と言うより,排水処理の方だと思う。現にベトジョーの日本語記事は,排水システムの故障により,未処理の水が海に放出されたと報じている。そうであれば,排水システムの確実性を増し,また仮に故障した場合でも有害な廃水が海に放出されないようにするフェイル・セーフを整備させることが先決ではないか。
"Vietnam to ask Formosa to change technology in wake of fish death scandal," TUOI TRE NEWS, July 6, 2016.
http://tuoitrenews.vn/business/35731/vietnam-to-ask-formosa-to-change-technology-in-wake-of-fish-death-scandal

「北中部の魚大量死、台湾フォルモサが5つの公約―活動は継続」『ベトジョーベトナムニュース』2016年7月4日。
http://www.viet-jo.com/news/social/160704035703.html

2016/7/8 Facebook
2016/7/17 Google+

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