アメリカの鉄鋼輸入制限の日本鉄鋼業への影響については,この『毎日』の記事が実情に即していると思う。1970-80年代と異なり,日本からアメリカに輸出されているのは,1)アメリカで製造しにくい高度・特殊な鋼材か,2)提携先が川下の工程を持っている場合の,母材の安定供給,3)その両方,に限られる。ユーザーは,高関税をかけたところでアメリカ国内では生産できない場合,結局は関税を払ってでも日本から輸入することになるだろう。逆に,日本から見た場合は,そもそもの制裁の不合理性,次に代替不可能性を前面に出して,適用除外を訴えていくのが常道だ。同盟国だから安全保障に問題はないと主張してもいいが,この数日のトランプの発言からすると,それだけで押し通せるとは思えない。
適用が除外されなかった場合のことも,考えておく必要はある。全部が全部代替不可能で結局日本から輸出できるかというと,そうとも言えないように私には思えるからだ。
*すでに1980年代の貿易摩擦の際に,日本が技術移転した企業・製鉄所では,自動車・電気機器用鋼板などの高級品であってもつくれないことはない。増産して日本からの輸入を代替するかもしれない。例えば,以下のサプライチェーンの場合。
アルセロール・ミッタル(AM)USA(製銑・製鋼・熱延)→I/N Tek<新日鉄住金・AMUSA合弁>(冷延)→I/N Kote<新日鉄住金・AMUSA合弁>(めっき)
I/N TekやI/N Koteは広畑製鉄所のコピーだし,そこで使える熱延広幅帯鋼を供給できるように,AMUSAには技術協力がなされている。
*熱延以後の工程だけ持って建材の薄板を生産しているカリフォルニア・スチール・インダストリーズ(CSI)にはJFEが資本参加し,母材のスラブ(記事の図では鋼片)を供給している。この建材向けスラブならば,USスチールやAMUSAでも代替できるかもしれない。しかもCSIはブラジルからもスラブを調達している。ブラジルは4月まで輸入制限の適用除外になっているから,それが続く場合,ブラジルからの調達量を増やせば日本からのスラブは代替できてしまう。
*韓国が4月まで適用除外になっている。適用除外が続けば,POSCOならば,日本製の鋼板のかなりの部分まで代替して対米輸出することができるだろう。
「米国 鉄鋼輸入制限 貿易戦争巻き添え警戒 日本メーカー対応追われ」『毎日新聞』2018年3月24日。
https://mainichi.jp/articles/20180324/ddm/008/020/054000c
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