2018年10月25日木曜日

ベトナムの地場鉄鋼企業ホア・セン・グループの大型製鉄所建設計画 (2016/7/20)

 ベトナムの地場トップ企業であるホア・セン・グループ(Hoa Sen Group=HSG)が,あらたな大型投資に乗り出そうとしている。

 昨年11月に報道された通り,HSGは,やはり地場のトップ企業であるホア・ファット・グループ(Hoa Phat Group=HPG)と,クアンガイ省で一貫製鉄所の建設に失敗したグアン・リャン・スチール(Guang Lian Steel=GLS)の買収を巡って競っていた。その後,今年の3月になって,GLSの保有者である台湾のイー・ユナーテッド(E-United Group)とタイクーンズ(Tycoons)は22億ドル投資してプロジェクトを再開し,42カ月以内に完工するという書類を省に提出した。

 そのためであろうか,一昨日7月18日以来の報道によると,HSG経営陣は,今度は南部ニントゥアン省カナ工業団地において年産600万トンの製鉄所と太陽光パネル工場などを建設する方針を立て,9月6日の臨時株主総会で承認を得ようとしているという。投資額は38億ドルと報じられている。

 この工業団地では,もともと2008年9月にライセンスを得た一貫製鉄所建設が予定されていた。国有の造船公社ビナ・シン(Vinashin)とマレーシアのライオン・グループ(Lion Group)が出資したものであった。ところが,世界金融危機と,ビナ・シンでの大規模な汚職の発覚により,プロジェクトはとん挫していた。2011年には省の工業団地管理局によってライセンスははく奪されていた。HSGはこのサイトを引き継ごうというのである。

 私の印象であるが,いったいどのようにして資金を調達し,建設が成るまでの利払いや返済を計画するのかが問題と思う。HSGはベトナム鉄鋼業を代表する私有企業の一つであるが,その売上高は2014-2015会計年度で17兆4470億ドン=7億6968万ドルにすぎない(7月19日ドル買いレート。Oanda.comによる)。年商の約5倍を投じようというのである。

 また,水質汚染事件を引き起こしたために評判を落としているとはいえ,年産707万トンの台湾系一貫企業フォルモサ・ハティン・スチール(Formosa Ha Tinh Steel=FHS)がまもなく稼働する(JFEスチールも5%出資している)。さらに中国からの輸入品がベトナムに大量流入している。この状況下で,一貫製鉄所を建設するのはかなりの冒険である。

 私の理解では,棒鋼・線材を一貫生産するHPGの方が「前門のフォルモッサ,後門の輸入品」状態で次の一手を緊急に打つ必要がある。表面処理鋼板を製造するHSGは冷延・表面処理工程しか持たない分,身軽であり,輸入品やFHSの生産する熱延コイルを材料として調達すればよいので,いますぐ追い込まれる状況ではないと思っていた。このタイミングで冒険に出る理由については,もっと調べる必要がある。

(なお,VietnamNet Bridge紙の写真はいい加減である。この写真は角ビレットの連続鋳造機出口だが,HSGはこの設備を持っていないはずだ)

"Hoa Sen Group to replace ill-fated foreign investors in two multi-billion steel projects," VietnamNet Bridge, July 19, 2016.
http://english.vietnamnet.vn/fms/business/160693/hoa-sen-group-to-replace-ill-fated-foreign-investors-in-two-multi-billion-steel-projects.html

"Vietnam's steel giant seeks to develop $3.8 billion complex: report," Thanh Nien News, July 18, 2016.
http://www.thanhniennews.com/business/vietnams-steel-giant-seeks-to-develop-38-billion-complex-report-64354.html

川端「市場経済移行下のベトナム鉄鋼業」『赤門マネジメント・レビュー』14巻9号,2015年9月。
http://www.gbrc.jp/journal/amr/AMR14-9.html

2016/7/20 Facebook
2016/7/27 Google+


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