鉄鋼・アルミ関税についての見解はすでに書いているので,この機会にTPPについての考え方を述べたい。
私は自由貿易(FTA)・経済連携協定(EPA)には基本的に賛成だ。正確に言えば,ベトナム市場経済化支援に参加した2000年ごろに,そのような見解になった。日本・アセアンEPAや日越EPAには賛成の立場で議論し,鉄鋼関税について経産省とベトナム鉄鋼協会に政策提言もした。
しかし,より広域のEPAは,東アジア共同体か,せめてAPEC加盟国でEPAができればよいと思っていた。TPPには非常に懐疑的で,反対のコメントも賛成のコメントもほとんどしなかった。理由は簡単で,建前通りに機能しないと思ったからだ。つまり,アメリカの交渉力が強すぎて,アメリカが一方的な主張をすればどんなに理不尽でも通ってしまうおそれが強いし,アメリカ政府はそういうことを平然とすると考えていたからだ。政策論としても,オバマ政権のもとでは影をひそめてはいたが,アメリカ議会・政府には,二国間での貿易収支を均衡させようという,およそ経済学的に話にならない相互主義が根付いており,そこに不意に回帰するおそれが強いと思っていたからだ。だから,ASEAN+3がみな入る協定の方がよいと思っていたのだ。
トランプ政権になり,私がおそれていたように相互主義への回帰が起こった。だが,予想外だったのは,TPPをアメリカの特定利益のために改造するのではなく,まっさきに脱退したことだった。皮肉にも,そのために私はアメリカ抜きのTPP11には賛成になった。だが,そこにアメリカを呼び戻すことには,今もなお懐疑的だ。戻って来るならば,TPPの中身をアメリカだけのために勝手にいじらないことが前提だが,そんな保証はどこにもないからだ。いま鉄鋼・アルミについて起こっていることは,不幸にしてこの懐疑を妥当なものにしていると思う。
繰り返すが,私は今でも自由貿易・経済連携協定には賛成だ。しかし,アメリカだけが非対称に交渉力の強い構成の協定には,やはり今でも懐疑的であり,支持できないと考えている。
2018年6月1日にFacebookに投稿したものを転載
「米国がEUやカナダ、メキシコに鉄鋼アルミ関税 各国は対抗策」Reuters,2018年5月31日。
https://jp.reuters.com/article/us-eu-ca-mx-steel-tariff-0531-idJPKCN1IW1XG
2018/6/1 Facebook
2018/6/6 Google+
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