2018年10月22日月曜日

『マネー・ショート』に出てくる「サブプライム・モーゲージを空売りする」ということのおおざっぱな説明 (2016/4/12)

(このノートは、映画『マネー・ショート』は専門的な言葉が出てきて難しそうとお感じの方にお手伝いをしようとするものです。専門用語がうっとおしくてこの映画を楽しめないのは、もったいないと思うからです。経済学者や金融機関にお勤めの方にとっては当たり前の、かつ9年ほど前に何度も読まれたような説明しか書いてありません)
(こちらのノートには、ストーリーの序盤の紹介が一部あります。半ば以後のネタバレはありませんが、このノートに書かれているしくみと歴史的事実を知っておくことでストーリーが予想できる効果はあります)



 空売りというのは、いま実際には持っていない金融商品を、将来一定の価格で売る約束をすること。その時期までに値下がりすれば、値下がりしている現物を買って、約束通りに高く売ることができるので差額を設けることができる。元手があまりなくても巨額の取り引きができる。
 サブプライム住宅ローンとは、貸倒率が高そうな客に貸した住宅ローンのこと。
 サブプライム・モーゲージ債とは、サブプライム住宅ローンや、それを担保にした貸し付けを証券にして売り買い可能にしたもの。
 だから、サブプライム住宅ローンが貸し倒れになりそうだと見たら、サブプライム・モーゲージ債を空売りすれば、値下がりによって大儲けすることができることになる。
 しかし、当時サブプライム・モーゲージを直接空売りするしくみはなかった。そのため、主人公たちはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というしくみを活用した。
 CDSとは、大まかに言えば保険の一種だ。別の投資家(実際にゴールドマン・サックスと取引する場面がある)をつかまえて、「あなた、保険会社になって私のかける保険を引き受けてくれませんか」というようなものだ。主人公たちは、サブプライム・モーゲージ債が貸し倒れになりそうだと思っている。そこで投資家に「あるサブプライム・モーゲージ債が貸し倒れになったら、あなたがかわりに私に払ってください(=保険金)。この約束をしてくれたら、手数料を一定間隔でお支払いしましょう(=保険料)」ともちかけるのだ。この保険商品がCDSだ。投資家のほうがCDSを売り、主人公たちが買うという風に設計される。CDSもまた証券化されていて、転売することができる。
 これで主人公たちは、事実上の空売りをしたことになる。サブプライムローンが貸し倒れになったとき、あたかもちゃんと返済されたかのように、モーゲージ債の元本を受け取ることができるからだ。サブプライムローンが焦げ付かなければ、えんえんと手数料を払うだけで大損だ。CDSの価格も下がり、転売もできない。他人が死ぬと見込んで生命保険をかけたはよいが、いつまでたっても死なないという状態だ。しかし、貸し倒れが広がり始める。損をしそうな投資家から、このCDS(=貸し倒れになっても元本を別人から立て替え払いしてもらう権利)を売ってくれという申し込みが殺到し、CDSの価格があがる。転売すればおおもうけということになる。他人の生命保険をかけて、見事にその人が死にそうだという状況で、保険証券が転売できるというような状態になったのだ。空売りの成功だ。
 しかし、不況の最後の局面では、空売りで儲けることもできなくなる。モーゲージ債が貸し倒れになった時に、元本を払ってくれる約束になっていた、CDSの売り手自体が破たんしてしまうからだ。元本の立て替え払いは履行されず、CDSは紙くずになる。保険をかけ、実際に保険金をもらおうという段になって、保険会社がつぶれてしまったという状態だ。預金の場合は、銀行が倒産してもある金額までは公的機関がバックアップして代わりに払い戻してくれるしくみがあるが(ペイオフ)、CDSにはそんなものはない。
 危機の早い段階で、CDSの価格が高騰した時に売り抜ければ大儲けだが、少し遅れると丸損になってしまったはずだ。サブプライム危機がリーマン・ショックへ、そして世界金融危機へと深刻化した時、世紀の空売りも終わったのだ。
 この説明は厳密ではないが、映画『マネー・ショート』を理解する上で問題ない程度には的を射ているはずだ。

2016/3/11 Facebook
2016/4/12 Google+




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