2018年10月31日水曜日

開発過程へのサプライヤー関与における「タダ働き」は何を意味するのか:建設業の事例から自動車部品産業を考える (2018/8/28)

 この投稿「ゼネコンの"談合"はなぜなくならないのか」に示された「入札前のタダ働き」の構造を要約するとこうなる。プロジェクトへの参加において,企画・調査・設計の独自の対価(ソフトフィー)が払われないにもかかわらずゼネコンはこれらの作業に参画して発注者たる官庁のために努力する。その限りではタダ働きである。しかし,そのコストを回収しなくてよいわけではない。施工費用に上乗せして回収する。そして,上乗せして回収できるような価格に吊り上げるために談合が活用される。また,談合を通して,企画・調査・設計で汗をかいたゼネコンが受注できるように調整される。こうして帳尻が合わされている。
 ここでくみ取るべきは,「タダ働き」に見えるような行為を伴う取引には必ず解明すべき問題があるということだ。一つには,「タダ働き」が生じる理由だ。二つ目は,「タダ働き」を埋め合わせようという行動だ。そして,「タダ働き」があるにもかかわらず繰り返されている取引ならば,それを成り立たせている利害調整と動機づけの構造だ。
 しかし,そもそも「タダ働き」が存在することに気付かなかったり,気づいていても重要でないと思い込んで無視したりすると,そこで考察はストップする。

 私がここで言いたいのは,別の業界,すなわち自動車産業をはじめとする日本の加工組み立て産業のサプライヤー・システムを考える上での示唆だ。
 実は,日本の部品取引においても,実はサプライヤーは製造だけでなく設計開発にも参加している。ここまでは,ほとんどの産業研究者の常識だ。そして,製造だけに参加するサプライヤーは図面をカスタマーから貸与される「貸与図」方式,設計開発にも参加するサプライヤーは図面を自ら引いてカスタマーに承認してもらう「承認図」方式で取引をしている。これは,サプライヤーシステム研究者ならば常識だ。
 しかし,ここから先に,さらに進むべき領域がある。あえて言えば,進むべきだったのに,見落とされがちだった領域がある。
 第1点。実は部品サプライヤーは,製造と設計開発だけでなく,そのひとつ前の先行開発にも,さらにその前のコンセプト創造にも関わっており,のみならずそれ以前の,具体的なモデルの製品開発が始まる前の研究開発にも関わっている。
第2点。実は日本の部品取引への参画においても,設計開発を,また先行開発をカスタマーとともに行ったサプライヤーに対して,独自の対価は払われていないことがほとんどである。「払われていないことがほとんど」だと断言するのがまずければ,「払われているという証拠は存在しない」といってもいい。「承認図」取引でも払われるのは製造への対価である。
 だから,日本のサプライヤーの製品開発への参加は,実は形式的には帳尻があっていない。「承認図」取引も先行研究への参画も,直接には帳尻のあった取引ではない。そこには,一見すると「タダ働き」に見える行為が存在する。しかし,こうした取引は継続している。

 これらのことはもっと研究されねばならない。

野呂一幸「ゼネコンの"談合"はなぜなくならないのか」President Online,2018年8月24日。
https://president.jp/articles/-/25977

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