裁量労働制は,理念通りにちゃんと適用され,それに関するルールが守られるならば有効な制度です。
厚労省のインチキ調査でなく,その前に行われたJIL-PTの調査では,以前に書いた出退勤時間が定められている「なんちゃって裁量労働制」の不備が指摘されている一方,裁量労働制は労働時間は通常の時間管理より長いけれど,その満足度は高いことも示されています。
問題は,労働法制は他の分野の法律に比べてもちゃんと守られないということです。裁量労働制にしてはいけない人に適用したり,前に紹介したように出勤・退勤時刻を勝手に定めて遅刻をとがめたり,使用者がやるべき健康管理を怠ったり,というところに問題があります。
また制度自体にも欠点があり,改善が必要です。たとえば,高プロもそうではないかと思うのですが,裁量労働制が労働者の裁量にゆだねているのは時間配分,業務遂行の方法,手段だけであり,そこに勤務場所は含まれていません。なので,「なんちゃって」でないちゃんとした裁量労働制を実施すると,出退勤時刻は自由だけど1日1度,一瞬だけは会社に行かねばならないという,おかしなことになっています。ICTの活用,多様な働き方,成果で評価というならば,勤務場所は業務遂行の方法,手段の一つとして,それも裁量のうちに入れるべきと私は考えています(実は,この点は国立大学法人化の際も悩みの種でした)。ここを改善しないと不自由でしょうし,場所を拘束したままでは働き方が改善されません。成果主義にもならないでしょう。
政府の問題は,裁量労働制の悪用による長時間タダ働きこきつかいを放置していることであり,不完全な制度を放置していることであり,それによって労働者を追い詰め(結局は会社のビルに閉じ込め),日本経済の生産性を下げていることです。これを改めようとせずに適用範囲を拡大し,高度プロフェッショナル制度を導入する法案には,私は野党とともに反対です。
しかし,野党は,労働時間の長さも問題にすべきですが,そこだけに焦点を当ててはいけません。まして,裁量労働制それ自体が悪いとするのはもっとだめです。そうではなく,裁量労働制を適切に適用させるために,悪用,乱用を防止する手立てを政府に求めることと,制度自体の不備を改善させて,本当に創造的で専門的な働き方を支援していくことが必要です。
なお,シェア先の記事は,野党の批判の単純さを主に批判しているように見えますが,本来の問題は,現行制度と運用の不備を政府が放置したままであることです。野党の力不足は深刻な問題ですが,ここで主に追及されるべきは労働行政であり,その不備を放置したままで新たな制度で人目を引こうとする政府の方であることをとりちがえてはなりません。
磯山友幸「長時間労働だけが「過労自殺」の本当の原因なのか」講談社,2018年3月8日。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54742
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