2018年10月31日水曜日

上原正三はなぜ『ウルトラマンタロウ』第4-5話を書いたのか (2017/8/16)

 8月12日付の『河北新報』の連載「これからを生きる君へ いま戦争を伝える」に上原正三さんが出て自著『キジムナーkids』のことなどを語っている。残念ながら電子版には載っていない。
 私は沖縄のことをほとんど何も知らない。沖縄のことについては,むやみにコメントしてはならないと思い,実際にもほとんどしていない。だが,上原さんの脚本になる作品ならば多く視ている。上原さんは若いころに円谷プロ文芸部に所属し,『ウルトラマン』では人気作「怪獣無法地帯」(金城哲夫との共作)などを,『ウルトラセブン』ではモロボシ・ダン誕生の秘密を明かした「地底Go!Go!Go!」などを,そして『帰ってきたウルトラマン』ではメインライターとして前半のほとんどを執筆された方だ。
 それらの話についてならば,私にも書く資格はあるだろう。
 ここで取り上げるのは,『ウルトラマンタロウ』でただ一度上原さんが脚本を書いた,第4-5話「大海亀怪獣東京を襲う!」「親星子星一番星」だ。
 この話は,一般にはそれほど有名ではなく,マニアの間でも必ずしも傑作扱いされていない。それは,同じく上原さんによるもので,はるかに有名な『帰ってきたウルトラマン』第13-14話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」「二大怪獣の恐怖 東京大竜巻」のリメイクと思われているからであり,また『タロウ』らしくファンタジックに書かれているからだろう。
 しかし,私には,実は『タロウ』第4-5話の方が,『新マン』第13-14話よりも重い話のように思えてならない。



(以下ストーリーの重要部分に触れますのでご注意ください)

 『新マン』第13-14話ではモロタイ島にすむつがいの怪獣シーモンスとシーゴラスが東京を襲う。シーモンスは産卵のために上陸し,シーゴラスはシーモンスを守ろうと角から放電して大竜巻を起こす。最後の決戦で,マットがレーザーガンSP70でシーゴラスの角を破壊すると,シーゴラスとシーモンスは海に還っていく。すると,ウルトラマンは攻撃をやめて去っていく。
 『タロウ』第4-5話では,オロン島に住むつがいの大亀怪獣キングトータスとクイントータスを,日本の興行師たちが捕獲に行く。産卵中のクイントータスを捕獲し,とりあげた卵でスープを作る興行師たち。クイントータスは怒りで麻酔から覚め船を襲う。キングトータスもかけつけてクイントータスを逃がす。ZATに救出された興行師たちだが,こりずに残った卵を日本に持ち帰って孵化させ,見世物にしようとする。ところが,彼らの身体中には亀甲状の腫物ができていて,痒くて仕方がない。そして,彼らの一人が夜中に失踪し,残った者たちの前にもクイントータスとキングトータスが現れる。東光太郎はウルトラマンタロウに変身して立ち向かうが,2匹の真空竜巻攻撃(ガメラ方式で回転しながら空を飛ぶ)に手も足も出ない。結局,興行師たちはすべてトータス夫妻に殺され,卵は奪い返される。復讐は完結したのだ。
 ここまでは,「モスラ」や「キングコング」などにある「おとなしい動物を捕まえて一儲けしようとする悪い興行師に天罰が下る」の類に見える。
 だが,ここから事態は急展開する。卵を持てないために,そのまま東京に居座るトータス夫妻。ZATはなんとか彼らをオロン島に返そうと知恵を絞るが,そこに現れるスミス長官(白人)。長官はすぐにカメを攻撃して殺せ,島に戻すなという。
鮫島参謀「島は長官の領土なんだ」
スミス長官「怪獣を領土内に入れることはできません。わが国の潜水艦や軍艦が安心してパトロールできません。演習するにも邪魔です」
 亀はおとなしい動物だ,殺すわけにはいかない,島へ帰すと主張する朝比奈隊長。
スミス長官「もうZATには頼まない。そのかわり,オロン島で亀怪獣が巻き起こす事件の責任は,すべてZATにある」
 ZATはスカイホエールにつりさげたバスケットに卵を乗せて先導し,トータス夫妻をオロン島に帰す。喜ぶトータス夫妻。
 と,水平線上に現れるスミス司令の艦隊(この恐ろしさは文字では伝わらないので写真を引用)。島に向かっていっせいに艦砲射撃を始める。苦しむトータス夫妻(写真)。執拗に続く砲撃。卵のほとんどは破壊され,残った一つとトータス夫妻とともに,オロン島全体が海中に没してしまう。
光太郎「連れてくるんじゃなかった……連れてくるんじゃ」









 東京に戻ったZATの前に出現するクイントータス。頭に傷を受けて狂暴化し,まだ避難が完了していない団地を襲う。ウルトラマンタロウに変身する光太郎。やむをえずストリウム光線を放つ。ZATもコンドル1号で攻撃する。倒れるクイントータス。その時,口の中に隠していた卵が孵化して小さなミニトータスが現れる。攻撃を中止するタロウ。鮫島参謀は攻撃を命じるが,朝比奈隊長は中止を命じる。
 しかし,そこにキングトータスが来襲。ミニトータスを巨大化させ,2匹でタロウを攻撃し始める。タロウは攻撃できない。
「このままでは俺が殺されてしまう。いったいどうすればいいんだ」
 タロウはクイントータスを担ぎ上げて飛び立ち,宇宙へ2匹を誘導しようとするが,巨大化したミニトータスは自力で飛べず,キングトータスの背中にも乗れない。これでは誘導できない。
 そこへ駆けつけるウルトラセブン。ミニトータスを背負って飛び,キングトータスを誘導する。タロウとセブンは,トータス親子をウルトラの国に連れて行った。そこでなら大亀親子も平和に暮らせるに違いない(※)。
 『新マン』では,シーモンスは産卵をしようと海を渡っただけだったが,それは東京に住む人々にとっては脅威だった。だから郷秀樹は「許せ!おまえたちは,力を持ち過ぎた」といって攻撃した。対して,『タロウ』のクイントータスはただオロン島にすんでいただけであり,産卵も島で行っていた。人間にとって何の脅威でもなかったのだ。それを捕獲して連れ帰り,卵を食べたのは東京の興行師だ。だからタロウはクイントータスを殺したことをすぐに後悔し,キングトータスとミニトータスを攻撃できなくなった。
 シーモンスとシーゴラスは海に,おそらくはモロタイ島に帰ることができた。しかし,トータス親子は東京にいることもできなければ,島に帰ることもできなかった。東京では暮らしの脅威とみなされて追放されるし,島では,そこを軍隊の活動の場にしようとするスミス司令の軍隊に攻撃されるからだ。光太郎がラストシーンで言ったように「この地球上に,あの亀の親子が安心して暮らせるところはない。ウルトラマンタロウはそう判断したんだ」。だから,ウルトラの国に行くしかなかったのだ。
 『新マン』では,MATとウルトラマンは,シーゴラスの角を破壊した後,海へ帰る2頭を黙って見送った。そうすることで,東京を守りながら,2頭が島で暮らすこともできるようにした。『タロウ』では,ZATはトータス夫妻が平和に暮らせるように島へ帰そうとしたが,そのために2匹は艦砲射撃にさらされた。だから東(タロウ)は「連れてくるんじゃなかった」と言わねばならなかった。ZATとタロウは,トータス親子の居場所を地球上で見つけることができなかったのだ。ウルトラセブンが助けに来てくれなければ,トータス親子は東京で暴れ続け,一度は攻撃を中止したZATも,再び戦闘を開始しなければならなかっただろう。
 上原さんは,自ら創造したシーモンスとシーゴラスの物語,東京と島の物語に納得していなかったのだと思う。だから,トータス親子の物語を書いたのだ。それはリメイクに見えて,より子ども向けのファンタジイに見えて,じつはすべてがより厳しい出来事となって書き直されていた。そうせずにはいられなかったのだろう。


※タロウとの闘いではクイント―タスが絶命しているように見えるが,この宇宙空間を行くシーンではクイント―タスの首が動き,明らかに生きている。瀕死の重傷だが死んではいなかったということか,タロウとセブンの力で甦ったということなのか,どちらかだろう。
 もとより,『ウルトラマン』のガヴァドン以来,怪獣を宇宙やウルトラの星に連れて行くという結末に無理があるのは明らかなので(だいたい宇宙に出たところで呼吸できまい),「宇宙に連れて行く」ということ選択肢が出た時点でリアリティの問題ではなくなっていると見た方がよいだろう。一度はクイント―タスは死んで,地球の現実を離れたから甦ったのだ。
※※この文章を,2015年3月30日に54歳で逝去された沖縄国際大学の大野隆之教授に捧げます。

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