2018年10月27日土曜日

中国鉄鋼業の過剰能力削減は進んでいないのか?:グリーンピース東アジアによる研究 (2017/02/13)

グリーンピース東アジアによる中国鉄鋼業の過剰能力研究。渡邉真理子先生のご教示により気が付いた。本日発表の研究報告だが,世界中で報道されている。
 2016年に中国鉄鋼業では8500万トンにも及ぶ大規模な能力削減が行われたが,そのうち稼働中の能力を削減したのは2300万トンに過ぎず,それ以外は遊休中の設備を削減したに過ぎなかった。一方,遊休していた4900万トンの能力が景気回復策によって稼働し,1200万トンの能力が新たに追加された。結果として,稼働中の能力は3650万トン増加した(上記の数字を差し引きすると3800万トンのはずだが,要約版にはこう書いてある。四捨五入の制なのか別の問題なのか,フルペーパーで要検討)。
 まだプレスリリースと要約しか読んでいないので,フルペーパーを検討する必要がある。現段階での留意点は三つ。
1.需要供給の関係から見れば、ある意味当たり前のことを言っているということだ。
2016年に中国の景気は回復したので,鉄鋼需要は伸びた。そのため鉄鋼生産も伸びた。ということは,稼働中の能力は当然増える。未稼働だった設備の一部は再稼働する。過剰能力削減策は,技術的に劣った設備,あるいは財務的なゾンビ企業から行うので,当然,すでに未稼働の設備から削減することになる。未稼働だった設備が一部閉鎖される。だから「削減した能力の多くは遊休中のもの,稼働中の能力は増える」のは,当たり前である。
 よって,この研究は客観的に見れば,「中国の過剰能力削減は進んでいない」とか「中国政府はまじめに能力削減をやっていない」ことを意味するのではないと思う。たぶん、そういう論評が山ほど出るだろうから、あらかじめ言っておく。
 ただ,レポート内にも指摘があるが,「過剰能力を削減すると言っておきながら景気対策をやって建設産業などによる鉄鋼消費を増やそうとするのは矛盾している」という論点はあるように思う。そういう観点を含めるならば,「うまく進んでいない」という言い方はあるかもしれない。
2.Custeel.comと共同で調査していることだ。
 Custeel.comとは「中国聯合鋼鉄網」であり,中国鋼鉄工業協会(CISA)が主導し,17の鉄鋼製造・流通企業の共同出資で設立されているe-Commerceサイトだ。つまり,中国鉄鋼業界公認団体である。実際,このニュースは大陸中国のサイトでも流れている。明日になればどうなるかわからないとはいえ(それはいつものことだ),中国政府もこの研究報告を認めているのだろう。つまり,この報告は中国政府にとって,ものすごく都合の悪い,国内で報道させたくない類のものではない。
 では,この研究を中国政府やCISAはどう使うのか。二つの可能性がある。一つは,この調査報告を,過剰能力削減政策の具体的な進捗度,順調な点,そうでない点,今後の課題を述べるという意味でのデータや論点を含んでいる実務的なものとして淡々と使う可能性だ。もう一つは,本当にまだ削減が不十分だと認識していて,「まだまだ不十分だ。次は稼働中の設備を減らすんだぞ」と全国に指令を飛ばすテコとして使う可能性だ。
3.環境保護の観点からは別の評価があることだ。景気が良いのだろうが別の理由だろうが,とにかく稼働中の鉄鋼生産能力が増えればSOx,NOx,PMの排出が増える。それは当たり前と言っていられない。つまり、グリーンピースがもっとも強調したいのは「中国鉄鋼業は、能力は削減されているというが、稼動中の能力は増えているから汚染物質排出は減らない」ということなのだ。「うまく進んでいない」というべき点があるとすれば,まずそれだ。
 もっとも,それでも相対的に汚染のひどい設備から閉鎖していっているので,時間とともに汚染物質排出の原単位は下がる可能性はある。ただし,これはデータでの検証を要するし,数年たたないとわからない。
 以上が暫定的なコメント。後は,フルペーパーを読んでから考えたい。

Despite claims of cuts, China sees steel capacity increase in 2016, air quality to suffer - Greenpeace, February 13, 2017.
http://www.greenpeace.org/eastasia/press/releases/climate-energy/2017/Despite-claims-of-cuts-China-sees-steel-capacity-increase-in-2016-air-quality-to-suffer---Greenpeace/

China’s operating steel capacity increased in 2016, despite
efforts on overcapacity, Media briefing on Custeel “Research Report on Overcapacity Reduction in China’s Steel
Industry”, Greenpeace East Asia, February, 2017. (フルバージョンへのリンク含む)
https://secured-static.greenpeace.org/eastasia/PageFiles/299371/Steel%20Overcapacity,%20Feb2017/GPEA%20Media%20Briefing_Research%20Report%20on%20Overcapacity%20Reduction%20in%20China%E2%80%99s%20Steel%20Industry.pdf

「中国の鉄鋼生産能力、2016年は工場閉鎖でも純増=グリーンピース」ロイター,2017年2月13日。
http://jp.reuters.com/article/china-steel-pollution-idJPKBN15S0E1

「绿色和平:2016年中国钢铁产能仍为净增 因关闭的主要是闲置钢厂」『幸福黄金網』2017年2月13日。
http://www.xftz.cn/a/2017/0213400417.html
「2016年中国钢铁行业有效产能及总产量双升」『財新網』2017年2月13日。
http://companies.caixin.com/2017-02-13/101054568.html

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