ベトナム鉄鋼業の話題。地場トップ企業の新製鉄所建設計画。ベトナム政府は首相名でクアン・ガイ省ズン・クワット経済区におけるホア・ファット・グループ（HPG）の製鉄所建設計画を承認したと報道されている。dtinewsによれば，これはもともと実施予定で停滞していたGuang Lian Steel（台湾のE-United Group[義聯集団]が親会社）によるプロジェクトを復活させるもの。投資額は60兆ドン（26.8-27億ドル）と報道されているが，これが第1期（2017-2019年）と第2期（2020-2022年）に分かれた工事のどこまで含むのかわからない。第1期で完成する製鉄所は条鋼類200万トンを生産し，第2期は重工業のための鉄鋼を生産すると報じられている。
ベトナムでは条鋼類，ことに普通鋼の棒鋼・線材についてはとうに能力過剰に陥っており，おそらく国内に存在する能力の50%も稼働していない。中国からの低価格品の流入はかろうじて2020年3月までのセーフガード関税で食い止めているが，その水準は最大でも15.4%であり，完全な食い止めを実現できる水準ではない。
おそらくHPGは，過剰能力や中国品との競争を覚悟の上で，自ら最高の生産性，最低コストの製鉄所を構築することで生き残りを図ろうとしている。現在，ハイズオン省に年間180万トンの条鋼類を生産できるホアファット製鉄所を保有しており，その生産コストはおそらくベトナム全土で最も低い。これに新製鉄所200万トンを加える。そのかわりに，電気炉ベースのフン・イェン製鉄所を閉鎖するか，生産量調整のバッファとして使うつもりだろう。
問題は，新製鉄所が最高の生産性，最低のコストを達成できるかどうかである。設備はおそらくホアファット製鉄所よりもよいものになるだろう。ホアファット製鉄所は高炉3基で180万トンだが，新製鉄所はおそらく1000立方メートル高炉2基で200万トンという設計だろう。川上の設備は中国製を導入し，川下はヨーロッパから導入してコストと品質を両立させるのもこれまで通りと予想される。そこまではよい。
一つの問題は原料だ。ホアファット製鉄所は2014年に私が訪問した時には，鉄鉱石の半分を自社鉱山，半分を国内購買で調達していた。そして，国内鉱石の安価な調達はHPGの競争力の1つの源となっていた。新製鉄所を建設した場合には，国内鉱石では不足し，輸入せざるを得ないだろう。
次の問題は競争様式だ。HPGの新製鉄所はベトナムでは海洋汚染のため完成しながら稼働できていないフォルモサ・ハティン・スチールのそれに次ぐ大きさであるが，世界的には小型であり，中国には同規模の製鉄所が多数存在する。そして，条鋼類では製品差別化は難しい。新製鉄所は国内および中国の鉄鋼企業と正面から価格競争を行うことになる。これまでHPGは，ベトナム北部に原料調達上も技術選択上も有力なライバルがいないことによって圧倒的な優位を築いてきたが，今後は激しい同質化競争に見舞われる。
最後に，技術選択だ。ベトナムといい中国といい，条鋼類を一貫製鉄所で製造する時代がいつまで続くのかという問題だ。韓国と中国でスクラップの蓄積が順調に進めば，早晩両国はスクラップ輸入国から輸出国に転じるだろう。それ自体は自明であり，問題は時期だけだ。安価なスクラップがあふれるようになれば，ベトナム国内でも電気炉ベースのベト・イー，ビナ・キョウエイ，ポスコSSなどが優位に立つ可能性が高い。小型高炉による条鋼生産の時代は長くは続かないと思われるのである。
HPGは，原料，競争様式，技術選択において，ローカルな条件と歴史的なタイミングを利用して成長してきた。その利用の仕方，タイミングの取り方は絶妙であった。しかし，今後，グローバルな競争条件とその変化がHPGに味方するのか。HPGはこの変化を超えて行けるのか。そこが問題となる。
Giant Dung Quat steel project approved, dtinews, January 26, 2017.（リンク切れ）
http://www.dtinews.vn/en/news/018/49220/giant-dung-quat-steel-project-approved.html
Hoa Phat to build steel plant in Dung Quat, VTV, January 27, 2017.
http://english.vtv.vn/news/hoa-phat-to-build-steel-plant-in-dung-quat-20170127065436725.htm
Breakfast @ Tuoi Tre News – January 26, tuoitrenews.vn, January 26, 2017.
http://tuoitrenews.vn/society/39323/breakfast-tuoi-tre-news-january-26
Hoa Phat may take over dying steel project in Quang Ngai, Vietnamnet Bridge, October 12, 2016.
http://english.vietnamnet.vn/fms/business/165101/hoa-phat-may-take-over-dying-steel-project-in-quang-ngai.html
鉄鋼製品のビレットと棒線にセーフガード発動－2020年3月21日まで、関税率は1年ごとに引き下げ－（ベトナム）,世界のビジネスニュース(通商弘報)，2016年8月15日，JETROウェブサイト。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2016/08/c7a53180c733923f.html
インタビュー「ベトナム鉄鋼業の変遷と展望」『メタル・リサイクル・マンスリー』2016年11月1日。
https://www.academia.edu/30973235/
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