社会保障の財源として消費税増税しかないというのは,本当に正しいのだろうか。あまりに当然のように言われているが,再考する余地はないのか。
宇佐美さんの意見に即してコメントしたい。まず,なぜ法人税ではだめなのか。
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法人税などの形で会社向けに大幅な増税を図ろうとすると、年金積立金はその相当部分を株式市場で運用していますから、その運用成績に悪影響を及ぼすことになります。株価というのは、基本的に上場企業の資産と利益配当で決まるわけですが、法人税をあげると配当原資が減るため、株価に対しては明確に下方圧力がかかることになりますからね。
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21世紀に入ってからの状況を見ると,必ずしもそうではない。企業が資産を持っているだけで有効に活用できなければ,株価は上がらない。現に,現金や有価証券を手元に積み上げている企業に対して,ファンドが増配や資産売却を迫り,経営者はあわてて自社株買いによる株価引き上げに腐心するという構図がある。
むしろ,企業の手元で遊んでいたお金が課税を通して有効に財政支出され,その恩恵が低所得層に回った場合,確実に消費需要が増える。そのことによって,一部の企業は利潤を上げ,株価は上がるだろう。この方が,まっとうな経済循環になるかもしれない。「政府よりも民間企業のほうが賢くてお金の使い方を分かっている」という話は,この35年ほどさんざ言われてきたが,今の日本の既存大企業ではそうとは限らないのではないか。きちんと検討する必要がある。
次に,なぜ所得税ではだめなのか。
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所得税に関しては、表面上は上がっていないものの、実質的には社会保険料の引き上げという形で10年近くかけて上昇してきており(2003年13.58%→2017年18.3%)、これ以上の所得増税にそれほど余地は残っていません。
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平均税率だけの問題ではないと思う。弱められる一方だった累進性を,いくらか戻してはどうか。例えば,1995年当時のように3000万円以上は50%にしてはどうか。1980年代のように5000万円以上は60%か65%にしてだめな理由はあるか。それだけでも結構な税収増になるだろう。
先日も書いたが,企業の純資産への課税についても,検討の余地は十分にあると思う。
逆に,消費税引き上げは,これまでも,景気が立ち直りかけた時に冷や水を浴びせるという深刻なショックを経済に与えてきた。増税後の経済停滞は税収にも悪影響を及ぼした。この教訓はどうくみ取るべきなのか。
消費税率引き上げが来年10月に迫っているこの時,本当にそれでよいのか,よく議論すべきではないか。私も,もっと具体的に言えるようにしたいと思う。
参考・所得税率推移
「社会保障の財源はこれから来る時代に向けては完全に不足してますよね。その主たる消費税は、つまるところ何%まで上がるのでしょうか?(ぬまえび・会社員)」宇佐美典也の質問箱,みんなの介護,2018年7月10日。
2019/3/18追記。この投稿に対する一応の答えが以下となる。
「本格的な再分配政策には消費税「も」欠かせない:井出英策『幸福の増税論 -財政は誰のために』岩波新書,2018年を読んで」Ka-Bataブログ,2019年3月18日。
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