先月発売された池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』岩波新書。私には,本書の記述は非常に重い。
私は,学生時代に『レーニン全集』やジョン・リード『世界を揺るがした十日間』などによってロシア革命史を学んだ。その後,私は産業の実証研究で食っていくようになったが,何をやっていても,考え方の根底においてマルクス経済学や社会主義思想の見直しを絶えず行わざるを得なかった。それに伴って,ロシア革命史の見直しも必要であった。集権的計画経済や,スターリンの恐怖政治や,内戦期にレーニンやトロツキーが行った過酷な弾圧についての頭の整理はできていたつもりだが,二月革命から十月革命までの臨時政府を主な対象とした本書の記述は,私の認識をまた揺るがすものだった。
個人的なことを離れても,本書はおそらく多くの人にとって重い。
本書の問題提起は多様で錯綜しているが,私の読んだ限り,その核心はロシア革命の以下のようなジレンマだ。一方でエリートと隔絶し,経済格差にあえぎ戦場に駆り出されて怒りを蓄積させている労働者・農民・兵士に依拠しなければ,専制を倒し革命を遂行することはできなかった。しかし,大衆の憤激をただひたすら推し進めて「街頭の政治」をエスカレートさせるだけでは,専制にかえて確立しようとしていた自由と民主主義と経済運営自体が崩壊しかねなかった。臨時政府はこの矛盾のただなかに立って苦悩し,崩壊していった。それを倒したボリシェヴィキの実験も,種々の側面はあれ,自由と民主主義を急速に,経済運営を紆余曲折の末に挫くものとなった。
そして,著者は「あとがき」で言う。「ことはロシアだけに限らない。民衆の価値観と社会上層の価値観とのギャップ,それによる社会秩序の動揺と混乱。こうしたことは,西欧とその白人入植地以外の地域が,西欧中心の世界秩序に組み込まれる際に,いたるところで起こったものである。のみならず,今日新たに,中東であれ,東欧であれ,旧ソ連諸国であれ,似たようなことは生じている。」
その通りだ。そして,ことはそれだけに限らないのではないか。西欧に,アメリカに,日本に「似たようなことは生じている」のではないか。
2017/2/21 Facebookで限定公表。
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