2018年10月31日水曜日

アメリカの鉄鋼・アルミ関税引き上げ方針についてのコメント (2018/3/5)

 アメリカの鉄鋼・アルミ関税引き上げ。昔,アメリカ鉄鋼業の衰退とリストラクチャリングを研究していた者としては,まだその手段にしがみつくかと呆れざるを得ない。

1)トランプ大統領やロス商務長官は,鉄鋼輸入の増大を相手国の補助金やダンピングのせいにしているが,そもそもアメリカ鉄鋼メーカーの競争力が弱いところに問題の根源がある。電炉メーカーはシンプルな生産システムで強靭だが,とくにハイテクなものをつくっているわけではない。高炉メーカーは,輸入品との競争に敗れ続けて縮小を続け,ようやく底を打った状態だが,いまなお省エネや環境対策は進んでおらず,たとえば転炉鋼のエネルギー原単位は日本,韓国,中国,EU,そしてインドよりも劣っている(かろうじてロシアよりましな程度だ)(RITEの調査による)。
2)輸入によってアメリカの安全保障が脅かされるとトランプ大統領やロス商務長官は言うが,国防総省は,鉄鋼とアルミは,調達品の国内生産に占める比率が3%程度にすぎず、購入することに問題はないとしているむしろ,同盟国を含む関税の「否定的影響」を心配している(Reuter3月1日配信。Christopher Beddorによる)。

3)米大手企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルも反対している。アメリカの経済界から見ても,鉄鋼やアルミはマイナーな存在に過ぎなくなっているのだ。
4)トランプもロスもやたら中国を非難しているが,この『日経』の記事に図示されているように,鉄鋼といいアルミといい,主要輸出国は中国ではない。鉄鋼とアルミの輸入を非難するのに中国をやり玉に挙げるのでは,目的と手段がまるでかみ合っていない。
5)この関税引き上げでよろこぶのは,USスチールやヌーコアといったアメリカ生まれの会社だけではない。アメリカの伝統的高炉メーカーの多くが,すでに多国籍企業アルセロール・ミッタルのものになっている。なぜかというと,ウィルバー・ロス商務長官その人が,自ら主宰するファンドで買収した鉄鋼メーカーを,アルセロール・ミッタルに売却したからだ。トランプやロスは,「アメリカ国内にある多国籍企業」も守ると言っているのだ。それはそれでいいとしても,ならばトヨタや日産やホンダの在米子会社も「アメリカ企業」と認めないと一貫しなくなる。その程度の一貫性はあるのだろうか。

「鉄鋼・アルミ関税上げ、米与党も批判 政権との不協和音強まる 経済界は賛否」『日本経済新聞』2018年3月3日。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27673480T00C18A3EA3000/

2018/3/5 Facebook
2018/3/25 Google+


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