2018年10月29日月曜日

「日本は既に移民国家」説に寄せて:移民受け入れに関する私の暫定的見解 (2017/07/23)

 日本の人口に占める在留外国人の割合は1.8%しかなくて,OECD諸国平均では8.1%だから,「日本は既に移民国家」はちょっと言い過ぎだと思いますが,2016年に,日本人の30万人減を外国人の15万人増で埋めたというのは,けっこう大きな出来事だと思います。もっとも,政府系機関の予測では,これから人口の減り方がきつくなって,単純平均で年間64万人くらい減るらしいので,それを今の外国人増加ペースで埋めるというわけにはいかないでしょう。
 このみずほ総研の記事は総務省の調査に基づきますが,これだと外国人の内訳が居住地や年齢でしかわかりません。そこで法務省の在留外国人データの方で内訳をみると,国籍別にみると人数では中国が約70万人と圧倒的,続いて韓国,フィリピン,ベトナムですが,伸び率ではベトナムが著しく約20万人に達してブラジルを抜きました。
 資格別では永住者(約73万人),特別永住者(約34万人),留学(約28万人),技能実習(約23万人),定住者(約17万人),技術・人文知識・国際業務(約16万人)が多い。10万人以上いて伸び率も大きいのは留学(+12.4%),技能実習(+18.7%),技術・人文知識・国際業務(+17.0%),家族滞在(+11.8%)。
 ここからすると,1)留学生誘致政策と先方の留学ニーズの合致,2)技能実習拡大策と先方の事実上の就労ニーズの合致,それとおそらくは3)大学の留学生が卒業したことによる就職がかなり強く効いていると思われます。
 さて,1)と3)は留学生が大学を卒業して,日本のホワイトカラー分野に進出するというルートが太くなってきていることを示唆します。ただ,在留資格「経営・管理」は約2万2000人,「企業内転勤」は約1万6000人,できて2年目の「高度専門職」は3739人しかいません。このほか,「医療」1342人,「教授」7463人,「研究」1609人です。この辺りが増えないと,高度人材の誘致という点ではまだまだ進んでいるとは言えないでしょう。
 私は,高度人材,つまりは企業家,経営者,各級マネージャー(その候補としての大卒),技術者,専門的労働者については,受け入れ促進で何も問題がないというという立場です。日本で教育を受け,日本社会に適応して働ける卒業生が出ることは,大学としても望ましい。いまのところ,これで日本人の大卒の就職が圧迫されるという兆候もないし,国内にあまり反対もないでしょう。
 ホワイト層の受け入れ拡大や留学生の日本での就職にも反対するというような国粋的議論とは,私は断固争います。他方で,逆方向からは,ホワイト層を特に歓迎というのはひとにぎりのエリート重視だという意見もあるかもしれません。しかし,「技能実習」23万人に対して「技術・人文知識・国際業務」16万人,「留学」28万人という数字をご覧ください。外国人の中でホワイトカラー層やその候補者(留学生の一部)は,相当な割合を占めているのです。ついでですが,理工系だけ高度人材とみなせという議論にも反対です。経営や営業や会計や財務や法務や人事や広報なしでどうするんですか。
 問題は1)の技能実習のところで,まじめな関係者の努力にもかかわらず,悪条件の渡航仲介や不法な労務管理が後を絶たないことです。
 専門家はとにかく,多くの人は,移民の大量受け入れをめぐる賛否の話をするときに,技能労働者をイメージしています(学生に,移民受け入れ問題を議論してもらう時,「どんな風に働いている外国人をイメージしながら考えたか」と尋ねると,ほとんどが「工場や店で働いているところ」と回答します)。私は,ここではまずもって技能実習制度の負の側面を解決することが先だと思います。日本に働きに来るすべてのルートから,人権抑圧や不法行為(外国の仲介業者によるものであれ日本の企業によるものであれ)をなくす見通しをつけるのです。その上で人数をもっと増やすことの賛否をたたかわせればいい。
 もっとも,看護,介護,建設など各分野に独自の差し迫った問題もあり,看護や介護のように,もともと専門的労働のはずなのに肉体労働扱いで待遇が悪くて,そのままで外国人に来てもらえるのかといった問題が存在している分野もあります。私はITしか自分で調査したことがないので,これらの分野ごとの問題は保留させてください。

団藤保晴「現実に移民流入が日本の人口減少を抑制していた」Yahoo!ニュース,2017年7月22日。
https://news.yahoo.co.jp/byline/dandoyasuharu/20170722-00073604/

橋本直子「日本にいる在留外国人数に関する法務省報道を受けて」Huffington Postブログ,2017年3月21日。
http://www.huffingtonpost.jp/naoko-hashimoto/foreign-residents_b_15501608.html

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査 2017年」2017年7月5日公表。
https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001184707&requestSender=estat

法務省「平成28年末現在における在留外国人数について(確定値)」2017年3月17日。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00065.html

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」2017年4月10日。
http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp

高田創「東京の外国人住民比率約4%,日本は既に移民国家」『リサーチTODAY』みずほ総合研究所,2017年7月21日。
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/today/rt170721.pdf

2017/7/23 Facebook
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