2018年10月26日金曜日

賃上げの根拠は「内部留保」か「付加価値の分配率」と「手元現預金」か (2018/7/1)

 以前にも書いたのだが(2013年3月2日),「内部留保」を賃上げの根拠にするのは誰であれやめた方がいい。理論的に現実的にも適切ではないからだ。

 私は賃上げはすべきであり,とくに非正規のところで強力にすべきだと思うが,そのためには説得力のある根拠が必要だ。以下,左翼の人にもわかってもらうために,ところどころマルクス用語を混ぜながら書く。

 内部留保はストックの概念であり,バランスシートの負債・資本側にある。計算法は色々あるが,いちばん大きくとると利益剰余金+資本剰余金+引当金だ。これらは,1)配当されなかった利潤が資本に転化した,2)時価発行増資で額面を超えた払込金,3)各種引当金でまだ支出されていないものだ。これらは,もう設備とか,土地とか,原材料とか,金融資産とかに投下されてしまっており,現金として存在しているのは一部しかない。そのことはバランスシートの資産側に表現されている。つまり,これらは溜め込みではなく,蓄積された資本として普通に再投下されているのだ。これを取り崩して賃上げするというのは,一部を除いて(後述)現実的でない。工場や土地を売却して現金をつくって賃上げせよというのは無理だろう。

 賃上げの根拠になるのは,内部留保ではなく「付加価値の分配率」(マルクス用語では価値生産物の分解)と「手元現預金の積み上げ」だ。

 まず前者。毎年のフローとしての利潤が大きすぎることを批判して賃上げをおこなえと言うことは可能だ。毎年生み出される付加価値(価値生産物)は賃金分と利潤分を含んでおり(V+M),そこで利潤が大きすぎるのであれば賃上げの根拠になる。マルクスが言った通り,フローとしての賃金と利潤が対抗関係にあるのだ。そこで労働分配率が下がっている(2011-16は連続で下がっている),とくに非正規の賃金は低すぎることを普通に主張するのが適切だ。

 次に後者。ストックで資本になったと言っても,設備や原材料に回らずに現預金になっている部分が近年多くなっていることだ(統計でみる限り2011-2016年は連続増)。これらは,バランスシートの資産の側に表れており,本当に現預金として存在している。この現預金は,利潤を資本に転化しようとしたのに,有効に設備や土地に投資できていないことを意味している。ケインズの意味で言う「投資」につながっておらず,マルクスの言葉では「資本が過剰」になっていて,マクロ経済の成長や雇用に寄与していないのだ。中小企業が不況期の資金ショートに備えてある程度積んでいるのはとにかくとして,大企業が積み上げているのはお金を遊ばせているだけだ。この部分については,本当に現金で存在しているので,資産売却しなくても賃上げの財源にできる。吐き出して労働者に還元せよ,その方が消費が増えてよほど国民経済に寄与できる,と主張することは妥当だと考える。

 なお,資産側に記載されている手元現預金のほかに有価証券の一部についても,本業に関連して投資とみなすべき実態がある部分と,本業に使い道のない余剰資金(資本の過剰)の表れに過ぎない部分がある。その境目は一見するだけでは明らかにならないので,実情に即して性質を検討することも必要だ。

共産・小池氏「トヨタの内部留保、使い切るのに5千年」『朝日新聞』2018年6月30日。
https://www.asahi.com/articles/ASL6Y7JW3L6YUTFK021.html

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