「働き方改革」で裁量労働制の適用拡大が問題となっている件。厚生労働省の不適切データが論外である点はすでに他の方が批判されている通りだ。そしてこれも指摘されつつあるように,不適切データの下になった厚労省のずさん調査より前に、厚労省管轄の独立行政法人である労働政策研究・研修機構(JIL-PT)が「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査」をしており,そこでは裁量労働制の方が通常の労働時間管理より長いことが明示されている。この調査を無視して,厚労省のずさん調査だけ使おうとしたことはさらに不適切であり,裁量労働制の労働時間を意図的に小さく見せようとしたのではないかと疑われても仕方がない。
「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果労働者調査結果」全文
http://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0125.pdf
1か月平均労働時間のデータは77ページにある
専門業務型裁量労働制:203.8時間
企画業務型裁量労働制:194.4時間
通常の労働時間制:186.7時間
以上は,すでに指摘されていること。ここでは,このJIL-PT調査結果により,裁量労働制の適用拡大の問題点として,従来あまり注目されていないところを考えたい。実は以前にも書いたことだ(2015年2月15日)。
裁量労働制とは,よく知られているように「実際にいくら働いたかに関係なく,みなし労働時間だけ働いたことにする」ということであるが,それだけではない。
そもそも何でそのような働き方が認められるかというと,「時間を区切ったうえで上司が指揮命令して働くのでなく,労働者が自分の裁量で働くのが適切な業務だから」だ。当然,そこには出退勤時間や休憩時間を自分で決めることも含まれる。例えば,私は専門業務型裁量労働制が適用されているが,残業代がつかないかわりに,何時に出勤し,何時に退勤し,昼休みをいつどれだけとろうとも自由だ。昼間に病院に行っても何も問題はない(子どものいる先生が保育所の送り迎えをするのも自由だ)。そして研究業務に関しては上司の指示・命令を受けない(教育,管理運営,社会貢献については授業時間のように時間拘束があるし,指示・命令を受けることがある)。
ところがわが国全体として横行しているのは,以下のようなことだ。
*「一律の出退勤時刻がある」
・専門業務型裁量労働制(以下「専門型」N=2741):42.5%
・企画業務型裁量労働制(以下「企画業務型」N=1167):49.0%
・通常の労働時間制(以下「通常」N=3072):91.6%
*「決められた時間帯にいれば出退勤は自由」
・「専門型」14.5%
・「企画業務型」11.3%
そして,上記二つの解答をした人が遅刻した場合の対応(複数回答あり。「専門型」N=1562,「企画業務型」N=704,「通常」N=2886)は,
*「上司に口頭で注意される」
・「専門業務型」42.6%
・「企画業務型」で43.3%
・「通常」47.8%
*「勤務評定に反映される」
・「専門業務型」24.6%
・「企画業務型」22.7%
・「通常」33.4%
*「場合によっては懲戒処分も科される」
・「専門業務型」4.3%
・「企画業務型」6.5%
・「通常」9.5%
*「賃金がカットされる」
・「専門業務型」10.6%
・「企画業務型」10.8%
・「通常」25.8%
※JILプレスリリース~「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」~ (2014年6月30日)
http://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf
このような「なんちゃって裁量労働制」を許してはならない。これでは,全然クリエイティブな企画業務もできないし,プロフェッショナルな働き方などできない。
これは,裁量労働制についての法解釈があいまいで,出退勤時刻を決めることが違法という解釈が確立していないことから来ている。このような事態を放置してはならない。
「働き方改革」の前提として,理念を裏切り,人をがんじがらめに勤務時間で縛りながら残業代を払わない,「なんちゃって裁量労働制」を根絶することから始めるべきだ。
その手始めとして,「裁量労働制適用労働者に一律の出退勤時刻を課したことが明らかになった企業については,労基法違反として注意その他の過程を経ることなくただちにその名称を公表し,当該労働者に関する裁量労働制を違法・無効とした上で,違法な裁量労働制の実施期間中に実質的に行われたと推定される割増賃金をさかのぼって支給すること」を提案する。そのために,「裁量労働制適用労働者に一律の出退勤時刻を課すことは違法」という命題を政府見解,行政の法解釈として明示すべきだ。
「裁量労働制データ偽装問題 厚労省に“確信犯”の疑惑浮上」『日刊ゲンダイ』2018年2月24日。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/223854/2
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