2018年10月31日水曜日

大野隆之教授のご逝去に際してーーウルトラセブン最終回のこと (2017/8/15)


 本日,ネットをうろうろしていたら,沖縄国際大学の大野隆之教授が,2015年3月30日に54歳で逝去されていたことに気がついた。いまさらで申し訳ないが,ご冥福をお祈りしたい。


  大野教授は,私の評論「佐藤健志氏の金城哲夫論について ウルトラセブンを中心に」を2003年にブログでとりあげてくださった研究者であり,直接メールもいただいてやり取りをしたこともあった。


  この評論は,1994年,つまりいまから23年前,29歳の時にミシガン州立大学の寮で書いたものだ。当たり前だが仕事で渡米したので,ウルトラシリーズの資料など持っていなかった。インターネットは既に存在したが日本語コンテンツは限られており,またアクセスも困難だった。私のPCは重さ2.7kgもあるエプソンノートで,Windows3.1すら入っていなかった。できたのはアメリカでCompuserveにつなぎ,そこから日本のNifty-serveにつなぐこと,それによってテキストメールをやり取りすることだけだった。若者には何のこっちゃであろう。よくもまあ書いたものだ。ちゃんと経済学の研究はしていたのだろうか(おい)。


  それはともかく,いま読んでみると,「金城哲夫が言いたかったことは,一人の宇宙人とひとりひとりの地球人との友情だ」という理解には自ら赤面するものの,妥当な解釈だという自信はある。その証拠はこうだ(以下,マニアのピンポイントな世界です)。


  ウルトラセブンの最終回「史上最大の侵略 後編」。有名なダンとアンヌの別れのシーン。ダンが変身しようがしまいが、マグマライザーが自動操縦で敵の基地に突っ込むことは決まっており、変身しなくてもゴース星人は撃退できる可能性が高い。それでも、ダンは命がけで、セブン上司と、一番大切な地球人,愛するアンヌを振り切ってまでも、変身する。それは、アマギ隊員を救うためである。実際,ゴース星人基地に突っ込んでセブンがやったことはアマギの救出のみであり,基地を破壊したのは自動操縦で突っ込んだマグマライザー搭載の爆薬だ。セブンは,地球全体や抽象的正義のためではなく、アマギ隊員を助けるために変身したのだ。


  大きな建前のためではなく,一人の友達のためにたたかう。地球防衛という思想が大切なのではない。友達だから大切なのだ。


  しかし,金城の苦しみは,「宇宙人=悪,地球人=善」という番組の大枠の中でそれを表現しなければならなかったことにあった。だから,改造パンドンをわざわざ出現させてセブンを苦しめ,キリヤマ隊長に言わせねばならない。「ダン!行こう!地球はわれわれ人類が、自らの手で守らなければならないのだ!」。セブンを「ダン」と呼ぶことは友情の証だ。しかし,キリヤマはウルトラ警備隊の隊長として,それを「地球防衛」の規範に回収するのだ。


  金城は,またウルトラシリーズは,この矛盾を逃れることはできない。友情は大事だが,それは地球防衛の仲間だから成り立つのかもしれない。しかし,友情は地球防衛と関係なく大切なのではないか。いや,ちがうかも……。


  この矛盾を突破しようとすれば,「宇宙人=悪,地球人=善」という所与の枠組みをひっくり返すしかなくなる。それでは番組が崩壊しかねない。しかし,金城は,それもやっていたのだ。それがすなわち「ノンマルトの使者」であり,このエピソードこそは「ウルトラセブン」のもう一つの結論,もう一つの最終回なのだ。この拙論の続きは,そういう中身になるはずだったのだが,23年たった今も書けていない。その間に優れた「ノンマルトの使者」論がたくさん出ており,私の出番はもうないだろう。


  中途半端な拙論を,大野教授は「「地球ナショナリズム」と「友情」を対比させた見方は重要である」といい,また「川端氏の論から学ぶべき事は、まずポリティカルな言説に対する一定のストイシズムである」と評してくださった。実のところ,私は学生時代,政治的主張をもってものごとを裁断しており,これを書いたころは,古い自分から抜け出すために悪戦苦闘を続けていた。この拙論で,「ダンは地球防衛のためでなく,アマギという友達を救うために変身した。そのように金城は書いたのだ」と言えたことは,いかにも青臭いけれども,私の誇りであった。だから,大野教授に評価していただいたときに,嬉しかったのだ。

「ウルトラマン研究12 (1)」オキナワの中年,2003年6月24日。
https://plaza.rakuten.co.jp/tohno/diary/200306240000/

川端望「佐藤健志氏の金城哲夫論について ウルトラセブンを中心に」『糸納豆ホームページ』(蛸井潔氏作成)。
http://www.asahi-net.or.jp/~ug5k-tki/ob&og/seven1.html

以下の文章は大野孝之教授に捧げるつもりで書きました。
「『ウルトラマンタロウ』第4-5話について (2017/8/16)」Ka-Bataアーカイブ。
https://riversidehopearchive.blogspot.com/2018/10/4-5-2017816.html

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