2018年10月20日土曜日

学部ゼミテキスト論 (2016/1/27)

先週金曜日で今年度の学部ゼミが終わった。テキストは前半がピケティ『21世紀の資本』,後半が藤本隆宏・東京大学ものづくり経営研究センター編『ものづくり経営学』だった。こんな組み合わせは,良かれ悪しかれ,めったにないだろう。
 改めて考えてみると,学部ゼミのテキストの選び方には三つの軸がある。
 1)分野。a)産業発展論ゼミだから企業論や産業論をやらねばならないのだが,最初からそうすると,どうも地に足がつかない感じになることが多い(例:議論が煮詰まったところで,突如「教授,このTPPってなんすか」)。そこで,最初はb)広く,日本経済の諸問題的な本をやることも多い。ピケティは対象が日本でなく世界だが,その応用だ。世の中一体どうなっているのかについて,経済・経営学で考えられるようになってから,ピンポイントな専門に進もうという方法だ。
 2)学術書と一般書。a)最初から学術的に整った本を使って,大学3年生はこれを読めなきゃならんのだと身体にしみこませるのが正道だ(元来,1年の時にやるべきだ)。今年のピケティなどはそうだった。しかし,b)テキストは一般向けの,主張はわかりやすく,論拠は粗くしか書いていない本にしておいて,ゼミでの報告準備で学術書や統計をきちんと調べて来て報告させる,という方法も,経験的に割といい。『ものづくり経営学』はそうだ。
 3)議論の仕方。学部ゼミの場合,題材が学術的にだけでなく時事的に面白そうなものを選ぶ。これは動かない。問題は議論の仕方である。私自身と意見が同じかどうかはあまり関係ない。しかし,議論がしやすいテキストでないと困る。議論のしやすさには2種類ある。a)すぐれた本なので議論しやすい場合。論証がきちっとした学術書であれ,ラフな一般書であれ,異なる意見とその根拠を明示的または暗黙のうちに想定して自説を主張する,開かれた本。これを選んで議論するのが正道だ。しかし,邪道もある。b)まちがいや手抜きが多い,いわゆる突っ込みどころ満載の本をあえて選び,ゼミ生に突っ込ませて盛り上げるのだ。相手をほめるよりけなしまくりたいという,人の持つフォースの暗黒面につけこんだ方法である。事例は数年前にあったのだが,言わぬが花だ。
 もう来年度のテキストを決めて,打ち合わせ会議の準備をし,春休みのレポート課題や序盤の議論の仕方を設計しておかねばならない。テキスト選定の時は,実物を見ながらでないと,さすがにネット書店のカタログページだけではわからない。どうしてもジュンク堂や大学生協書籍部で品ぞろえをよくしてもらうことは必要だ。あとは,カンだ。
 で,次年度は橘木俊詔『日本人と経済 労働・生活の視点から』東洋経済新報社,2015年から始めようと思う。これは1)b)で2)b)で3)a)の本である。3)b)ではない。念のため。橘木先生はあらゆる論点について明快すぎるほど明快に主張されているが,その人柄の誠実さのためか,必ず反対意見にも気を使っている。そこでゼミ生には,複数の意見について,学術論文や統計で調べてこいという風にすればよいだろう。


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