2018年10月22日月曜日

愛知製鋼の事故によるトヨタのラインストップについて (2016/2/15)

 トヨタのラインストップの影響にももちろん関心はありますが,研究者としては,この事故からトヨタ生産方式の考えと,その実際について何がわかるかを考えたいです。シェア先は会員登録なしで読める東京新聞。

 愛知製鋼の場合は,おそらく鍛造部品の材料になる特殊な棒鋼か線材をつくっていたのだと思います。事故が起きたのが棒線圧延ラインですから,自動車部品そのものをつくっていたのではなく,おそらく鍛造部品の材料になる特殊な棒鋼・線材を圧延していたのでしょう。それを切って,加工して部品になるわけです。

論点1:1社発注だったのかどうか
 まず,トヨタ生産方式の研究では,1)同一部品を複社発注して競争を保っているのか,2)あるカテゴリーでは複社でも品番レベルでは1社発注なのかについてブレがあると思います。たぶん思想としては2)だと思うのですが,私も100%の確信が持てないのです。また,3)考え方は複社発注でも諸事情によって1社発注になってしまっていることがある,ということもありえます。
 今回の場合も,愛知製鋼知多工場のみでつくっていた特殊鋼なのか,他社でもつくっていたが,それだけでは量が足りないのかが問題です。

論点2:JIT生産の弱点を示す出来事なのか
 この指摘は部品供給のトラブルでトヨタがラインストップする旅に出て,常套句化しつつあります(アイシン精機刈谷工場火災事件,東日本大震災によるルネサスエレクトロニクスの被災によるMCU供給難など)。しかし,今回の場合,1月8日に事故が起こって,ラインストップが2月8日からですから,それなりに在庫はあったとみるべきでしょう。事故が起きたのが棒線圧延ラインですから,完全にJIT生産できるものではそもそもありません。愛知製鋼は電気炉メーカーなので,製鋼の技術的な最小ロット(電気炉の1杯分)をかなり小さくできます。しかし,部品の受注ロットよりはどうしても大きくなる。だから,注文をまとめてから生産して納期を待ってもらうか,ある程度見込みで(たとえば電炉1杯分のうちの3分の2だけ受注済み)つくって在庫するしかありません。在庫はビレットで持つのかもしれませんし,棒線で持つのかもしれません。「在庫ゼロ」とはいかないという現実的な前提を据えたうえで,JIT生産の影響があったかどうかをよく考える必要があります。

論点3:代替生産のむずかしさ
 代替生産がなぜすぐにできないかというと,A)できるのだが量が足りないので,別のラインや神戸製鋼所などでつくってもらっているが,そちらにも空き能力がないので十分にはできない。B)特殊な部品の材料なので,品質審査に時間がかかる,という指摘は報道の中にも見られます。さらにありうるのは,C)製造レシピとして十分に可視化・ドキュメント化されていない部分があり,他のラインや工場にすぐには適用できない,D)トヨタは製品そのものだけでなく生産プロセスまでライン単位で認定するので時間がかかる,などですが証拠はありません。普通に考えるとE)愛知製鋼が他社に製造レシピを教えたがらないということもあり得ますが,トヨタのサプライヤーシステム内ではまずそういうことはないでしょう。それは,長期継続取引内の信頼関係を守るためには,事故の時に供給を絶やさず,途絶えても極力早く復旧させることが第一だからです。

 まずは,ここまでとします。

「トヨタ 生産一時停止 国内16工場 愛知製鋼事故で」『東京新聞』
(リンク切れ)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016020190135554.html

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