2018年10月22日月曜日

ホンハイの傘下でのシャープ再建による技術流出を懸念する議論について (2016/2/15)

 技術流出,技術流出というが,まず1)不法な手段によって,技術情報が社外に漏洩すること,たとえば産業スパイや,退職社員による契約違反の技術情報持ち出し,2)合法な手段を通してだが,売買を介さずに技術情報が社外に拡散すること,たとえば契約違反にならない範囲での情報入手に基づく模倣や改良,3)対価を払っての技術情報の入手は全然意味が違う。ホンハイは過半数出資してシャープを傘下に収めているのだから,液晶技術が鴻海という台湾資本のものになるのは3)だ。
 3),つまりホンハイが技術情報を対価を払って買おうとしているのに,それを1),つまり盗みであるかのように言うのは論外であり,デマの類に属する。
 3)だとわかっていた上で技術流出だと懸念するというのは,どういう意味なのかを考える必要がある。これは,シャープの技術は,シャープの株主だけのものではない,しかし,外国人のものにしてはいけないということを言っているに等しい。積極的な表現を使うと,「株主だけのものではないが,とにかく日本人のものであるべきだ」ということを言っているわけだ。それを正当化する理由があるかどうかが問題だ。
 正当化できるとすれば,広範な日本人の生活の安全さや快適さに関わっており,しかも所有者が外国人,具体的には台湾の資本になった場合には,台湾資本であるというそれだけの理由によって,人為的に技術情報やそれにもとづく製品の供給が制限される,ということが証明されなくてはならない。もうちょっとイメージしやすい例を挙げると,日本の軍事機密に関わっているとか,買収元が採算を度外視して日本に対する差別的意図によって行動し得るような国有企業であるとか言う場合は,これに該当し得る。もっと具体的に言うと,シャープがホンハイの子会社になったら,日本の安全保障は脅かされるのか。液晶を使ったスマホやテレビは日本人に供給されなくなるのか。液晶技術の研究・開発は,日本から人為的に引き上げられたり,日本人社員だけがアクセスできないようなことになるのか。共同研究のパートナーが意図的に日本の企業や大学から切り替えられたりするのか。ホンハイが,採算を度外視してもそのように行動する可能性はあるか。その弊害は,国民負担で公的資金を投入してでも産業革新機構が買収すべきというほどのものか。技術流出を懸念するというのなら,そういう問題に答える必要があるということだ。
 「外国だからダメ。技術流出するから。以上」では思考停止であり,話にならない。まともな証明をする責任は批判者の方にあるのだ。

 なお,少し専門的なことを言うと,経済産業省が本来問題にしていた「意図せざる技術流出」は,「先端的技術が化体された最終製品・部品、設計図情報・製法等の生産技術・ノウハウ、先端製造設備等に含まれる技術・ノウハウであって、文書化されたデータ・情報の取得又は人を媒介としたノウハウの伝達等に伴い、我が国企業の意図に反して又は想定していた範囲を超えて、海外において流出したもの等を指す」。つまり,日本企業が合意の上で妥当な対価で外資に買収されることを含んでいないはずだ。

「シャープ社長会見1時間半 『技術流出ないと信頼』」『毎日新聞』2016年2月4日。


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