2018年10月18日木曜日

最低賃金を1000円に引き上げるべきという冨山和彦氏の主張について (2015/11/2)

 最低賃金を1000円に上げるのが経済成長にプラスとなる。私は,この点は冨山和彦さんの言う通りだと思います(『毎日新聞』2015年10月2日)。
 冨山さんは経営コンサルタントであり,産業再生機構の元COOでもある方で,左翼でも何でもなく,イデオロギーではなく経済活性化の見地からおっしゃっていることに注意してください。私は,以下の理由でこの主張に合理性があると思います。
 ブラック企業は生産性が低いのをブラックな労務管理でごまかして存続しています。それをいちいち労基署が取り締まったり,がまんできなくなった人が裁判に訴えることで解決するのは,正しいことですが手間暇がかかります。最低賃金1000円未満の企業を一律摘発する方がはるかに低コストです。
 全国一律最低賃金にすれば,地方のセーフティネットにもなり,地域格差是正にプラスです。
 同じ賃上げでも,安倍政権が進めている,企業への要請による賃上げ策より健全で,格差是正に役立ちます。政権が企業に賃上げを要請するのは,意思決定への介入の根拠があやふやだし,何より大企業の正社員中心の賃上げにしかなりません。最賃の引き上げは低所得層の底上げになります。
 低所得層の場合,限界消費性向が高いと予想できますので,増えた所得は消費に回り,有効需要にストレートに結びつきます。
 いわゆる賃金インフレで,消費者物価が上昇したらまずいのではないかという問題は確かにあります。しかし,この間政府がやろうとして来たリフレによるインフレよりは二つの点でましだと思います。
 第一に,通貨膨張によるインフレ誘導は,企業がカネを借りない限り無効です。期待利潤率が低いと,ちょっとくらい利子率が下がっても投資しないからです。賃金インフレならば,一部は価格上昇に解消されてしまいますが,一部は有効需要になりますので(※),その方がましだと思います。
 第二に,通貨膨張によるインフレは,「みんな,手持ち現金が目減りするくらいならいますぐに支出しようと思うだろうなあ」という想定に依存しています。しかし,経済理論的に必ずそうなるという根拠などありません。「インフレが始まると,ますますやっきになって貯蓄する」かもしれません。その点,「低所得層は,賃金があがったら消費を増やすだろうなあ」という見通しの方が,はるかにあてになると思います。
※これは,ケインズ『一般理論』原典の主張だと私は理解しています。すべてインフレに解消してしまうという主張があることは知っていますが,どうしてそうなるのか理解できません。私の経済学の理解が古くて浅い可能性が大いにあることは否定しませんが,間違っているとは思えないのです。

(記事はリンク切れ)
http://mainichi.jp/shimen/news/20151002ddm008070127000c.html

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