この文科省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」(中間的とりまとめ)は重要なことを明らかにしています。残念ながら対象から人文・社会系を除いていますが(※),おおざっぱに言って以下の2点が重要と思います。
1.科学研究費の増加により,論文は確実に増加している。科研費の成果ではない論文は,私立大学で増えているが他では減っている。
要するに,科研費の投入には確実に効果があるのであって,「科研費を増やしても効果がない」という近年みられる批判は正しくないということです。また,国公立大学で科研費と関係ない論文が減るのは,運営費交付金が減らされているからです。
2.単位金額あたりの論文数は基盤研究(C)(500万円以下)や若手研究(B)(39歳以下限り,500万円以下),挑戦的萌芽研究(500万円以下),研究活動スタート支援(採用されたばかりの研究者限定,300万円以下)の成果であるものが多い。引用回数の多い論文数も,基盤研究(C),若手研究(B),研究活動スタート支援が多い。
上記の種目は,課題あたりの金額が少ない種目なのです。基盤(S)は5000万円以上2億円以下,基盤(A)は2000万円以上5000万円以下ですが,これらの方が金額あたり論文数は少ないのです。要するに,少ない金額を多数の研究者に交付している種目の方が論文全体,および引用回数の多い論文の生産性が高いのです。「少額を多数にばらまく方式はだめだ。少数の優れたチームに集中的に配分するのがよい」という意見は正しくないということです。
人文・社会科学の場合に同じことが言えるかどうかは,研究成果の測定の仕方が異なるので,類推以上のことは言えません。また中間とりまとめなので,正式の報告書が出たら全文をよく読んだ方が良いと思います。しかし,重要なことは,少なくとも科学研究費全体についてのいわゆる「ばらまき批判」に対して,重要な反証が提供されているということであり,また運営費交付金の削減の悪影響が示されているということです。
※論文の本数をWeb of Scienceというデータベースに掲載されたことで判断しているからです。医薬生命系,理工系の研究成果は,評判の高い国際学術誌に掲載される英語論文で代表される度合いが強く,有力学術誌はWoSで相当程度カバーされています。対して人文・社会系は一部そのような基準で測られる分野もありますが,日本語で書かれたものを含む単行書出版という形で表現される分野もあり,また国ごとに学界が完結していて日本語の学術誌が重要とされている分野もあります。そのため,WoS掲載論文で研究成果を代表できる度合いが弱いのです。
「果たして競争的・重点的資源配分(選択と集中)は生産性を上げるか?(国大協報告書草案28)」『ある医療系大学長のぼやき』,2014年12月29日
https://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/6d498f76461485e0687f40a702a49b00
2014/12/31 Facebook, Google+
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