2018年10月15日月曜日

オフショア・サービス・アウトソーシングを理解するための理論に関する初歩的整理 (2014/6/23)

 本日は大学院ゼミ。前半は総合商社の中国事業に関するサーベイ,後半はオフショア・サービス・アウトソーシングの理論的検討を,それぞれ2時間行った。
 
    後半の方が理論的にはたいへんだった。オフショア・サービス・アウトソーシングを理解する理論として,文献では比較優位論,取引費用理論,プリンシパル・エージェンシー理論,バーチャル・バリュー・チェーン論(グローバル・バリュー・チェーンのようなもののようだ),コア・コンピタンス論が紹介されている。これらは一体,どう総合的に理解したらよいのか。
 
   結局,総費用=生産費用+取引費用として,生産費用に関わる理論と,取引費用に関わる理論に分けて議論した。
 
   まず取引費用はないものとして財・サービスのほんらいの生産費用を見る。比較優位論は,生産費の国別に見た高低を,製品ごと,または工程ごとに決定するものである。これにより,財・サービスの生産拠点がオンショアになるか,オフショアになるかが分かれる。FDIは,個別企業が,本国企業が持つ優位性の移転によって,現地企業よりも高い生産性を実現するものであり,これで当該企業の立場から見た,オンショア・インソーシング,オフショア・アウトソーシング,オフショア・インソーシング(FDI)が比較される。
 
   次に,生産費用は所与としたうえで,取引費用が変動することを考える。取引費用の高低によってインソーシングとアウトソーシングが分かれる。取引費用を変動させる要因は様々に分類できるが,例えば資産特殊性,取引頻度(取引量),不確実性などに分かれる。不確実性は,契約前の不確実性と契約後のそれに分けることもできて,契約後の不確実性において発注者が受注者を監視し,契約を強制するコストを考えるのがプリンシパル・エージェント理論ということになる(私にはどうしてもP&A=取引費用理論のごく一部としか思えないのだが,理解が狭いのかもしれない)。
 
   グローバル・バリュー・チェーンの決定は生産費用と取引費用の両方に関わる。どの工程がどの国に配置され,そのうちどの部分は自社によって担われ,どの部分は外注されるのが最適なのかを考えるときは,比較優位,FDI,取引費用理論のいずれも念頭に置かねばならない。
 
   ここまでの理解で注意しなければならないのは,それぞれの理論のもっとも基本モデルでは,比較優位論は生産費用にしか関わっていないし,取引費用理論は取引費用だけにしか関わっていないということだ。実際の企業がオンショア・オフショアを決定し,またインソーシング・アウトソーシングを決定する場合には,生産費用と取引費用の両方を考慮せざるを得ないに決まっている。しかし基礎理論では,オンショア・オフショアの決定を理解するときには生産費用論だけが,インソーシング・アウトソーシングの決定を理解するときには取引費用論だけが前面に出やすい。ここに理論構造の偏りがあることを踏まえながら実証を行っていかねばならない。
 
*テキスト
L.M.Ellam, W.L.Tate and C.Billington, Offshore outsourcing of professional services: A transaction cost economics perspective, Journal of Operations Management 26, 2008, pp.148-163.
D. Marin, A new international division of labor in Europe: Outsourcing and offshoring to Eastern Europe, Department of Economics, University of Munich, Discussion paper 2005-17, September 2005. (Journal of the European Economic Association 4(1/2)に完成版が掲載されているが,本学で購読しておらず,DPで代用(涙))
李勇主編『BPO基礎理論与案例分析』中国人民出版社,2012年。
 
なお,本日のゼミは英語と中国語のテキストを中国人院生が英語で報告し,日本語で討論するという方式で行われた。

2014/6/23 Facebook
2016/1/6 Google+



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