2018年10月15日月曜日

クリステンセン&レイナー『イノベーションへの解』第5-6章について。A note on C.M. Christensen & M. E. Raynor, The Innovator's Solution, Chapter 5 and 6 (2014/6/20)

 学部ゼミ終了。クリステンセン&レイナーは『イノベーションへの解』第5-8章で,ポジショニング学派と資源ベース派を統合しようと,丁寧な論理構築を行っている。今日までに読んだ第5章「事業範囲を適切に定める」と第6章「コモディティ化をいかに回避するか」はボジショニング学派からの視点が強く,業界構造の具体的な状況に即して適切なポジションを取るべきだという観点だ。さらに,イノベーションの二類型論とアーキテクチャ論も部分的に統合されている。
 
    機能と信頼性が「十分でない」状況では相互依存型(インテグラル型)アーキテクチャによる持続的イノベーションが有効であるが,機能と信頼性が「十分良い」状況になると,性能を一部落としてでも低価格や使いやすさなど他のメリットをもたらす「破壊的イノベーション」が有効になる。このときにモジュール化も伴うことがある。モジュール化を伴う場合,利益を生み出す源泉は製品からモジュールやサブシステムにシフトするので,企業がなすべきこと自体がかわってくる。この変化する状況と無関係に自社のコア・コンピテンスを想定すると,資産売却や外注による縮小をくりかえすだけで,新たな利益の源泉を手にすることができなくなるというのだ。
 
   コモディティ化回避の方策は,日本企業にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。しかしクリステンセン&レイナーは無情にも,同一の製品やサービスの機能や信頼性が「十分良い」領域に入ればコモディティ化は必然だとする。コモディティ化に対抗するためには,利益の源泉がコア部品や装置や流通チャネルなどのサブシステムにシフトするのにあわせて,事業の重点と構造を変えていくしかない。
 
    彼らの議論にIPは入っていないことに注意すべきだ。それは入っていないから不十分だという意味ではない。IPの話が入らない,より一般的・原理的な産業と戦略の原理として,収益源はシフトするのであり,それについていく以外に道はないということが主張されているのだ。
 
    もちろん,ゼミのもうひとつの教科書である小川紘一『オープン&クローズ戦略』が述べるように,IPをがっちり防衛するクローズ領域とオープン領域の境目を設計することは重要だ。しかし,それは,収益源はシフトするということを承認し,その上に立って行うべきだろう。企業の意志一つでIPを防衛する領域,開放する領域を決められるのではなく,業界の構造変化の流れという客観条件ををよみながら,自らにとっての状況を把握し,方策を決めるという思考順序を踏むべきなのだろう。
 
    以前にも似たようなことを書いたが,最終的には経営者の取るべき主体的道を論じる経営戦略論でありながら,個別主体のありかたが万能であるかのような主観主義を排除し,客観条件から入って状況を介し,主体的選択に抜けるというのがクリステンセンの一貫した認識論・実践論なのだと思う。それは,とても説得力があると私には感じられる。
 
    もっとも,クリステンセン&レイナーがRBVの言う企業の資源や能力を軽視しているわけではない。次回に読む第7,8章が彼らなりの資源・能力論である。

2014/6/20 Facebook
2016/1/6 Google+


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