本学東北アジア研究センターの明日香 壽川 教授から新著『クライメート・ジャスティス 温暖化対策と国際交渉の政治・経済・哲学』日本評論社,2015年,をいただきました。
著者は,温暖化対策が進まない理由を二つ指摘します。
「第一は無関心である。インドで何千人が熱波で死のうと,南太平洋の島が沈もうと,将来世代が困ろうと,多くの人は実際には気にしない。残念ながらそれが現実である。
第二は反対勢力である。温暖化対策は現在の化石燃料エネルギーに依存する政治経済・社会システムの構造改革に直結する。したがって,現システムに既得権益を持つ人たちが立ちはだかる」。
また著者は,「温暖化対策の策定や国際交渉は,正義や公平性に関する議論あるいは対立の歴史そのもの」として,途上国の「豊かになるためにはGHG排出量は必要不可欠」,先進国の「途上国が参加していない京都議定書は不公平」という主張を例として挙げ,「GHG排出量の公平な分配には具体的にはどのような選択肢があって,それがどのような哲学・思想に基づいていて,どのような原則・指標に様々な研究や国際交渉の現場で用いられているかを明らかに」しようとしています。
さらに著者は,「温暖化対策は経済成長と両立しない」という言説はおかしいとして,「どのような制度設計のもとでは,どこの誰がどのような影響をどのようなタイムフレームで受けるのかという細かい議論が必要」としている。さらに突っ込んで原発については,「3・11は,電力会社にとっての既設原発の発電コスト(運転コスト)は小さいものの,日本社会全体にとっては発電コストもリスクも極めて大きいことを示した」として,省エネや再生可能エネルギーによる温暖化対策が不可欠と主張します。
きわめて鮮明な主張を持ちつつ,実際に各国や機関から提示されている目標を丁寧に検証しているのが本書の特徴です。この課題に向き合うには,価値基準と実証の双方に携わっていく覚悟が必要なのでしょう。
第1章 地球温暖化問題の今
1.1 加速する気候変動
1.2 地球温暖化問題の本質
1.3 温暖化対策国際交渉の現状
1.4 日本政府の対応の変遷
1.5 まとめ
第2章 だれがどれだけ削減するべきか
2.1 数値目標の公平性に関する議論の経緯
2.2 COP19およびCOP20でのCBDR&RC原則に関する議論
2.3 まとめ
第3章 合意をより難しくしている問題群
3.1 負担の公平性に関わる論点
3.2 EU ETSの域外拡大・国境税調整・無償割当
3.3 まとめ
第4章 公平性のものさし
4.1 公平性原則、指標、努力分担方法
4.2 公平性参照フレームワークとIPCC第5次評価報告書
4.3 まとめ
第5章 各国が持つべき公平で野心的な目標
5.1 IPCC 第5次評価報告書における具体的GHG排出削減数値目標
5.2 日本における数値目標の議論
5.3 まとめ
第6章 各国の数値目標を評価する
6.1 研究機関などによる事前評価
6.2 EU・米・中・スイスの数値目標に対する評価
6.3 日本の数値目標に対する評価
6.4 まとめ
おわりに
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