2018年10月18日木曜日

中国鉄鋼業の過剰能力をめぐる謎 (2015/11/29)

 「ノーマルな市場競争の下では利益を得られないような能力」としての過剰能力が中国に大量に存在することは間違いない。ただ,この記事の冒頭の図のように粗鋼生産と消費の差で「余剰生産」などとするのは適切でない。それでは,競争力がある健全な輸出もすべて余剰扱いになる。

 そうではなく,まず保有する生産能力と生産量の差を見るべきである。これで,「稼働できないのに保持されている能力」がわかる。これが過剰能力の本丸であり,簡単に計算できる。事態が今ほど深刻でなかった2013年でも2億8000万トンほどあったはずだ。日本の鉄鋼生産の2年分より多くの能力が停まっていたのだ。いまはもっと多いだろう。

 次に問題なのは,「利益が出せないはずなのに稼働している能力」だ。これは能力と生産データでは出しようがない。コスト割れで販売しているのであろうから,価格データを入手し,コストを推定した上で比べるしかないだろう。

 こうした過剰能力の保持は,中国の場合は雇用保持や税収拡大のための政府の介入によって生じていると考えるのが妥当である。

 では過剰能力は,大型企業が相対的に多い国有企業と,小型企業が相対的に多い民営企業のどちらに分布しているのかというと,ここがはっきりしない。この記事も,中国政府も,民営企業の側にあるとみなしている。他方,経済学者全般や移行経済の研究者は,効率が悪い国有企業を政府が支えているのではないかと疑うのが普通である。ここにギャップがある。

 技術的に言えば,小規模で効率が悪く,環境負荷の高い設備は小型・民営企業の方に多い。それは私も論じてきたことで,たぶん間違いはない(※)。しかし,政府の保護が問題であるのに,それが国有大企業より中小の民営企業の方に強く作用しているというのは不自然である。また,小型・民営企業の方が市場に対する反応性が良いことは,一度計算してみたが,圧延設備の稼働率がCISA非会員企業の方が高いことによってわかる。

 国有大企業の側に過剰能力が分布している可能性について,もっと研究が必要だ。そのために,国有企業のガバナンスとビヘイビアを観察する必要がある。

川端望・趙洋「中国鉄鋼業における省エネルギーとCO2排出削減」『アジア経済』第55巻第1号,2014年3月。

中村稔「新日鉄住金を苦しめる、中国の「出血輸出」」東洋経済Online,2015年11月21日。

0 件のコメント:

コメントを投稿