山谷剛史『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』星海社,2015年。著者は,中国のインターネット黎明期から,Googleの完全遮断を象徴的な出来事としてワールドワイドウェブから独立するまでの歴史を描いている。このテーマでまとめられた類書はないと思われるので非常に便利。
読み終えてみると,著者のいうワールドワイドウェブからの独立をもたらした要因は,1)中国のネットユーザーの特性,2)パクリの要素も創造的要素も含む中国の独自サービスの発達,3)中国政府によるネット規制であると思う。これは何を意味するか。これからどうなるか。ことはビジネスの上でも世論形成の上でも重要だ。
私はかつてあるシンポジウムで,「ガラパゴスであっても,ガラパゴス諸島が極端に大きかったらどうか」という趣旨のことを述べた(※)。中国とはそういうところだと思う。だから,少なくとも今のところ,著者が言うように,中国のネットユーザーにとってそれなりに心地よい独自サービスのネット空間が作り上げられている。
ではこれからどうなるか。仮に,いったんネットという要因をはずし,中国企業の家電製品などと一括して「中国風ガラパゴス」を考えるならばこうだ。1)もし破壊的イノベーションとリバースイノベーションを跳躍台にして,やがては海外でも受け入れられる製品・サービスをつくり出すならば,中国の製品・サービスは世界に広がるだろう。ファーウェイや小米にはその動きがある。2)巨大なガラパゴスのままでいるならば,しばらくの間は繁栄するかもしれないが,コモディティ化,海外市場に出られないという限界があらわれ,やがては海外から浸食される側に回るという時期も来るだろう。従来,政府の保護に甘え,また政府の規制対策に腐心することにエネルギーを費やしてきたことのツケがまわってくるだろう。家電メーカーにはその兆候がある。
しかし,ネットという要因を入れるとどうなるか。Baidu, アリババ,テンセントや,まだ見ぬ新たなネットビジネスを考えるとどうか。それは,プラットフォームとネットワーク外部性を活用しきれるかどうかにかかっているように思う。参加者が多いネットワークは,参加者が多いがために便利になる。参加者の多いプラットフォームからはつぎつぎと新たなビジネスが生まれる。ここで重要なのは,アリババはともかくBaiduやテンセントは,政府による中国国内での,ネット規制と引き換えの保護を得ているように思えることだ。そこで得た資本と開発能力を,海外での自由な活動に活用しようとしている。言論統制を利用した育成など,ほめられるようなものでは全然ない。しかし,経済的にみて新たな産業育成政策になっている可能性がある。そして,テンセントについては成功してしまっているのかもしれない。しかし,ガラパゴス故の弱点は当然あるのであって,うまく行くとは限らない。例えば,Baiduの検索の悲惨な精度だ。
産業研究としては,政府による政治的・社会的なネット規制と寡占の関係,本国でのネット規制と,ネットワーク外部性を活かした経営戦略の整合性が一つのテーマになるのではないだろうか。今これ以上,具体的に語ることはできないが。
※https://www.academia.edu/8186648/
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http://www.seikaisha.co.jp/information/2015/02/13-post-248.html
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