2018年10月17日水曜日

中国鋼鉄のフォルモサ・ハティン・スチールへの出資比率拡大について -ベトナムと東南アジアの鉄鋼業はどう動くか- (2015/2/16)

2015年2月16日付『日刊鉄鋼新聞』の報道によると,台湾の銑鋼一貫メーカー中国鋼鉄(CSC)は,台湾プラスチックグループがベトナムで建設中のフォルモッサ・ハティン・スチール(Formosa Ha Tinh Stee=FHS,台塑河静鋼鉄興業)に対する出資を,これまでの5%から25%に拡大することを決定した。CSCは「垂直統合を図った方が,お互いに最も効果が高まる」とコメントしている。

 このコメントは重要な意味を持つ。CSCの狙いがフォルモサ・ハティン・スチールの一貫製鉄所が生産する熱延コイルであることが正直に語られているからだ。以下,CSCの行動が,各国大型鉄鋼企業の東南アジアへの進出の中で持つ意味と,日本企業との関係について考えてみる。

リーマンショック以後,東南アジアの鉄鋼市場は順調に回復し,成長軌道に戻っている。詳しく見れば,伸び率が高い製品もある。ベトナムの場合,熱延コイルの見掛消費は2013年に503万トンに達しており(次工程用含む。SEAISI統計。以下数値は同じ),2005年からの8年間で6.9倍にも増加している。しかし,生産はゼロであり,全量が輸入されているのだ。したがって,これを輸入代替する機会は大いに拓けている。

 また,需要503万トンのうち,191万トンは次工程である冷延鋼板の生産に必要とされるものだ。この中には,120万トン/年の冷延ミルを持つ(2014年現在の稼働は70万トン程度)チャイナスチール・スミキン・ベトナム(CSVC)も含まれる。CSVCはCSCと新日鉄住金の合弁だ。CSVCの使用する熱延コイルは,30%が新日鐵住金,70%がCSCから送られているが,フォルモサがまともな品質と競争的なコストで動き出せば,そこから供給してもらうことは容易である。

またCSCはマレーシアにも小型のレバース(逆転式)圧延機によるものだが冷延コイルを生産する子会社CSCスチールを保有している。CSVCとCSCスチールに対する熱延コイルの供給を念頭に置いて「垂直統合」と言ったことは間違いない。

むろん,状況は容易ではない。アジアの鉄鋼市場は,主に中国の設備投資ラッシュが原因で供給過剰となっており,利幅が薄い状態だ。東南アジアには中国からの輸入品が流れ込んでいる。しかし,現代的な製鉄所があれば,対抗できないほどの状況ではない。国産品と中国からの輸入品が対抗する状況だ。だから,東南アジア市場を確保したい先進国・NIEs・BRICsの大型鉄鋼メーカーの一部は,東南アジアでの拠点確保を狙って投資を続けているのだ。

これまで最大の投資は,インドネシアのクラカタウ・ポスコであり,フォルモッサはこれに続く大型案件だ。中国品がだぶついている状況でも思い切って投資を行うか,グローバルシェアが低下するのを覚悟でこれを見送り,需要が手堅い高級品セグメントだけをクリーム・スキミングしようとするかで,大型鉄鋼メーカーの態度は分かれる。CSCは動いた。日本メーカーは,これまでのところ高級品のみを,圧延・めっき工程への投資で確保しようとしている。フォルモサに出資を打診されているJFEスチールは,選択を問われている。

 なお,いささかやっかいなのは,CSCにとってこれまで戦略的提携の相手は新日鉄住金だったが,フォルモサが出資を打診している日本メーカーはJFEスチールだということだ。もしJFEがフォルモサに出資すると,CSCは熱延工程ではJFEと組み,その製品を供給する冷延工程では新日鉄住金と組むというややこしいことになるだろう。

 仮定の話をするならば,むしろ,新日鉄住金がフォルモサに投資する方がスキームは単純になる。フォルモサはCSVCが必要とする高級熱延コイルをつくれるようになり,安定した市場を得るだろう。新日鉄住金はフォルモサの持つ高炉から熱延までと,CSVCの持つ冷延・めっきを技術的に一貫管理できるようになるだろう。新日鉄住金は,世界各地に圧延・めっき工程を保有しつつ,水準の高いパートナーから母材供給を受けるという戦略を拡大できる。これは,これまでアメリカでアルセロール・ミッタルUSAと,中国で宝鋼集団と実行してきたものであり,ノウハウも備えているからベトナムでも実行可能であろう。ただし,この戦略が実現すると,JFEスチールはグローバル供給能力において新日鐵住金に大きく水をあけられることになるし,CSCは新日鉄住金と協調しつつ地位を高めることはできても,これを押しのけてシェアを高めることが難しくなるだろう。JFEスチールやCSCが新日鉄住金の覇権を望まないならば,別の行動に出ることもまた理由のあることだ。

ここまでは各国大型鉄鋼メーカーの視点から述べてきたが,最後にベトナムの鉄鋼業界の視点を想像して一言述べる。私が調査した限りでは,いまベトナムの鉄鋼業界各社は,「まもなく,フォルモサが稼働する」ことを軸にして自らの行動を決めようとしている。CSCの出資拡大により「フォルモサは,本当にちゃんと稼働する」という信頼度が高まることは確実であり,それによってローカル各社の行動は速まり,より踏み込んだものになるだろう。

 台湾・CSC、台プラの新ベトナム製鉄所への出資拡大。25%、約1100億円投入『日刊鉄鋼新聞』2015年2月16日。
http://www.japanmetaldaily.com/metal/2015/steel_news_20150216_1.html

※参考:
川端望「東アジアにおける銑鋼一貫企業の比較分析」
https://www.academia.edu/7219459/  
佐藤幸人「東南アジアにおける日台ビジネスアライアンスのケーススタディ」(日本貿易振興機構アジア経済研究所・財団法人台湾経済研究院 編 『日台ビジネスアライアンスの新たな可能性』2014年3月)。
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/2013/2013_B405.html

2015年2月16日:facebook掲載。
2015年2月17日:Google+転載。
2015年2月20日:「フォルモッサ」を「フォルモサ」にするなど字句修正。

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