2月4日,アンソニー・P・ダコスタ教授による大学院生向け特別講座「国際人材移動,経済発展,イノベーション」が東北大学経済学研究科で行われました。ダコスタ教授は,高技能者の国際移動の背景として,資本主義の蓄積構造の変化,すなわち脱工業化と取引可能なサービスの台頭を強調されました。そして,国際移動の理論と事実,その結果としてのインド人のシリコンバレーでの成功,他方での高技能者とそれ以外の格差の拡大などについて語っていただきました。
以下、私なりに敷衍した話です。ダニエル・ベルの『脱工業化社会の到来』以来,問われ続けていることですが,大きな構えとして,世界資本主義全体としての脱工業化の傾向を強調すべきなのか,それとも先進国経済の脱工業化と,他方での新興国の工業化を強調すべきなのかは難しいところです。この点はダコスタ教授も両義的でした。ただ,インドという新興国経済がすでに広義のサービス産業(第3次産業)に先導されていることは注意する必要があります。
いずれにせよ先進国経済は脱工業化し,資本蓄積はサービス産業を基礎に行われるようになります。サービス産業の一部は知識集約的であることから,先進国では高技能者の需要が局地的に拡大し,これが人材移動を促します。他方で,ICTの発達により生産と消費が分離可能となり,取引・貿易可能なサービスが拡大するために,サービス・オフショアリングが可能になります。そのため,新興国にソフトウェア・ICTサービス産業を形成する可能性が生まれ,これは高技能者を需要する場所を多様化させる方向に作用します。この両傾向の相互作用が,頭脳流出,海外人材の活用,頭脳循環というダイナミクスを生み出します。そしてこの産業内にも知識集約的な部分と資本集約的な部分(データセンターとか),そして単純労働集約的な部分の分業が生まれます。むろん,ことの性質上,そうした動きだけで人材移動が説明できるわけではありません。政治的,文化的,社会的要因が絡まって,種々の傾向やパターンを生み出します。実際,移動パターンは地域特性を持っており,純経済的要因が均一に作用するわけではありません。とはいえ,その根底には共通の背景があります。
ダコスタ教授の講義を通して,資料の使い方や証明の仕方もさることながら,ふだんは忘れがちな,人材移動の歴史的な意義を深くとらえることの重要性を思い出しました。
In February 4, Prof. Anthony P. D'Costa made a special lecture on "International Mobility of Talent, Economic Development, and Innovation," for the graduate school students. As a background of the mobility of high-skilled people, he emphasized the change of accumulation structure of capitalism, that is deindustrialization and the rise of tradable services. He talked about the theories and facts of international mobility of talents. Moreover, the outcome of the mobility as the success of Indians in Silicon-Valley on the one hand, the disparity between high-skilled people and others on the other.
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