2018年10月17日水曜日

Devesh Kapur and John Mchale, Sojourns and Software: Internationally Mobile Human Capital and High-Tech Industry Development in India, Ireland, and Israel, in Ashishi Arora and Alfonso Gambardella eds., From Underdos to Tigers: The Rise and Growth of the Software Industry in Brazil, China, India, Ireland, and Israel, Oxford University Press,2005. (海外滞在とソフトウェア:国際移動する人的資本とインド,アイルランド,イスラエルハイテク産業の発展) (2015/1/27)

博論や修論の審査,期末試験の準備等と並行での読み込みとなったため,わずか1章読むのに何日もかかってしまった。この論文は題目のとおり,人材の国際移動とインド,アイルランド,イスラエルのハイテク産業の発展の関係について,経済学の観点から理論的・実証的な成果を整理したものだ。

<構成>1 はじめに
2 移出民のストックとフロー
2.1 広義のディアスポラ:系統
2.2 狭義のディアスポラ:移出民
3 移出と産業発展:フレームワーク
3.1 展望
3.2 不在
3.3 ディアスポラ
3.3.1 交流と取引
3.3.2 評判の仲介者
3.4 帰還
4 適用例
4.1 トランスナショナルな結合:インドのシリコンバレー・ディアスポラ
4.2 虎を駆り立てる:帰還するアイルランドの大卒者
4.3 イスラエルに来た約100万のソビエト人:何がイスラエルのソフトウェアを押し上げたのか
5 結論

(結論部より引用して訳)

「 ソフトウェア産業発展のストーリーは,細部においては3つの国でそれぞれ大いに異なるものの,おおまかなアウトラインは類似している。これら3国は見事な水準の高度な人的資本を生み出している。各国に特有の非効率性は,人的資本が適切に活用されず,それゆえ相対的に安価であるという状態をもたらしていた。そしてソフトウェア・セクターは,本書の他の章が検証したような理由によって,この費用上の優位性を活用する上で相対的に効果的であることが判明した。これはストーリーのうちの,機会に満ちた側面だ。しかし,ソフトウェアに開かれていたこのまさに同じ国際的な賃金ギャップは,海外に移住するという強いインセンティブをもつくりだす。そのことは競争優位を掘り崩す可能性を秘めている。しかし,技能ある人々の海外移住は通常,おそるべき「頭脳流出」というタームで認識されるが,その効果は多面的であり,またよく理解されていない。われわれは,国内で育った人的資本がいなくなることによってもたらされる弊害だけでなく,ディアスポラが取引を促進する効果や,技能を向上させた移出民が帰還する可能性をも考慮しなければならない。

総じて言えば,この3国にとって,技能ある人々が移住することの利益はコストを上回っているということを強く指示す証拠がある。

例えば,シリコンバレーにおけるインドの経験は,ディアスポラがどのように国際取引を促進する価値あるナショナル・アセットになり得るか,とくに事業が複雑な取引をなしていて,評判への関心が大きいところではそうであるのかを示している。十分な費用・便益分析はわれわれの視野を超えたところにあるが,われわれの判断では,高度な技能を持つインド人の海外移動は,インドの国際競争力あるソフトウェアセクターの発展において鍵となる役割を果たしてきた。

アイルランドの経験は,10年にわたる失われた人的資本が,適切な条件の下では,どのように技能の貯水池となり,国内労働市場がタイトになる時に,資本制約を緩和し経済拡大を支えるために活用されうるかを示している。この経験はまた,とくにコンピュータセクターで示されるような,海外で費やされた時間のポジティブな生産性効果を示唆している。

イスラエルのソフトウェア産業においては,ロシアからの移民の企業者行動におけるはっきりとした足跡を見つけるのは難しいのだが,技能ある労働者のこのような大量の流入がこの急速に拡大する部門における賃金コスト圧力を緩和することに,部分的には競合する部門における供給制約を緩和することをとおして役立ったのは,ほぼ確実である」。

From Underdogs to Tigers (OUPのサイト)
http://ukcatalogue.oup.com/product/9780199275601.do  
2015年1月27日 初稿。facebook掲載。
同日訳文修正。
2015年1月28日。Google+転載。

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