2018年10月17日水曜日

破壊的イノベーションについて:ゼミ誌序文から (2015/3/26)



The Economist explains what disruptive innovation means. 

 2014年度は,学部ゼミでいまさらながらクリステンセンの理論について議論した。この記事では,イノベーターのジレンマは既存大企業に困難な選択を迫るという側面を強調しているが,それは裏返せば新規参入者の方が破壊的イノベーションを遂行しやすいということだ。ゼミ誌序文ではこのことを強調した。1ページにおさめるため話が強引だが。
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 本号に収録するのは,2014年9月に大学院前期課程を修了した章胤杰君の修士論文と,同じく2014年9月に学部ゼミナールを修了した千葉幸大君,2015年3月に学部ゼミナールを修了する佐藤圭太君,髙橋篤史君,高橋宏輔君,中野駿君,成尾友博君,横山大暉君の卒業論文です。
 今年度は,遅ればせながらクリステンセン&レイナーの『イノベーションへの解』を丁寧に読んで討論しました。クリステンセンの議論が衝撃的だったのは,大企業が顧客の声に忠実で,技術開発を怠りなく行って持続的イノベーションを遂行し,高利益率によって株主に対しても忠実であり続けるがゆえに凋落することがあり得る,という理論を提示したからです。
 これまで,大企業の問題点を指摘する理論は,独占に安住するとか,肥大化した組織の弊害とか,定着し切ってしまった企業文化の完成とか,技術優先で顧客を置いてきぼりにするとか,そうした,市場に適応しないがための,劣ったところに注目してきました。だから,それを避けるためのマネジメントが必要だということでした。ところがクリステンセンは,優れた既存大企業が,市場に適切に適応したがために滅びることがあり得る,そこに法則性があるというのです。だから,破壊的イノベーションの担い手になりやすいのは新規参入者ということになります。破壊的イノベーションの意義とは,かなりの程度,新規参入者の意義と重なるのです。
 私たちは,今年度,クリステンセンだけでなく,大滝義博・西澤昭夫編著『大学発バイオベンチャー成功の条件』も読み,鶴岡メタボロームキャンパスも見学しました。長い時間をかけて育成された地域発・大学発ベンチャーが業界に参入して,成長を始めた例を目撃したのです。
 しかし,日本全体としてはどうでしょうか。1990年代後半から大学発ベンチャーの意義を強調する政策がとられたものの,民主党政権期に下火になりました。安倍内閣は経済成長とイノベーションを強調していますが,その重点は明らかに既存大企業のビジネス環境を整え,利益を上げやすくすることに回帰しています。これが本当に日本経済再生への道なのでしょうか。過去の栄光を信仰するイデオロギーではないのでしょうか。
 私たちは,ゼミで学んだことを忘れずに,学び続け,行動しなければならないように思います。
2015年3月
産業発展論ゼミナール担当教員
川端 望

The Economist explains What disruptive innovation means, The Economist, January 25, 2015.

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