2018年10月11日木曜日

A note on Michael Porter, Towards a dynamic theory of strategy. マイケル・ポーター「戦略の動態理論に向けて」に関するノート (2013/4/24)

 学部ゼミの予習のため,Michael Porter, Towards a dynamic theory of strategyを読んだ。この論文は経営戦略論の大家マイケル・ポーターが,自らの意見に対抗して出現した資源ベース経営戦略論(RBV)にまとまった反論を行ったものである。お前はそんな有名な論文も今ごろ読んだのかという問題はさておき(さておくか),この論文を読んで,ポーターの五つの競争要因やダイヤモンドといった明快でシンプルなフレームワークが,経営戦略論という領域にふさわしい認識論についてよく考えた上で述べられていることがわかり,非常に面白かった。ポーターに賛成か反対かとは別に,まずその深みが面白く,意外なのである。

 例えば,ポーターは因果関係の認識に注目し,企業が成功した原因を「なぜ」「……だから」「それはなぜ」「……だから」「それはなぜ」と問いただしていくと無限後退に陥ってしまうことを指摘している。なぜこの企業は低コストのポジションを得ているか。規模の経済を獲得しているからだ。それはなぜか。産業に早期に参入したからだ。それはなぜか……。これをいつまでも繰り返していては操作性がなくなり,経営戦略論としてものの役に立たない。このため,因果関係のどこをどのように,何に注目して切るべきが問題だ。ポーターは,戦略論として操作性を得るためには,厳密な仮定の上に成り立つ(逆にその仮定があてはまらないと成立しない)経済学的「モデル」ではなく,五つの競争要因のような「フレームワーク」の方がよいというのである。ポーターのフレームワークは,ただ直感的におおざっぱに言っているのではなく,理由があってのものなのだ。

 そして,まず競争優位の源泉として活動activityをとらえる。個々の活動が競争優位の単位である。諸活動は編成されたものが価値連鎖value chainおよび価値システムvalue systemである。さらに優れた諸活動がもたらされる理由として,ポーターはドライバーdriverというコンセプトを打ち出す。ドライバーとは,つまり競争者間の差異を決定する構造的諸要因である。これには規模,活動における累積的学習,活動と他の要因のリンケージ,関連するサイクルを通した活動における能力利用のパターン,活動における投資選択のタイミング,活動に際しての垂直統合の程度,政府の規制のような活動がどうなされるかに影響を与える制度的諸要因を含んでいる。横断的に(共時的な,という意味と思う)因果関係をたどるならば,ドライバーが競争優位の根本的な源泉である。それは縦断的に(通時的に),どのようなプロセスによって獲得されるか,初期条件が強く影響しているか,それとも経営者の選択が左右しているかということとは別の問題なのである。

 このように話を組み立てた上で,ポーターはRBVを認識論的に批判する。「横断的問題は論理的に先行する。何が望ましいポジションを支えるかについてのより具体的な理解がなくては,それを獲得するためのプロセスを分析的に取り扱うことは事実上不可能である。」。「もっとも悪いところを言えば,資源ベース論は循環論法である。成功する企業は,ユニークな資源を持っているがゆえに成功する。それらは成功するように資源をはぐくむ。しかし,何がユニークな資源なのか?何がそれを価値あるものにするのか?なぜ,ある企業はそれを創造し,あるいは取得することができるのか?」。何が優位で,何がユニークかが決まっていなければ,それを獲得する話をすることはできないというのである。 ポーターはRBVを全否定するのではない。ただ,資源の強調はマーケットポジションの強調にとってかわるべきではなく,これを補足するものだと言いたいようである。

 ポーターは,競争優位は資源だけから生まれるものではないとして,様々なドライバーから生まれると述べる。そして,いささか驚いたことに,もっと認識論的に踏み込む。環境も個々の企業も,ともに競争優位の源泉であり,両者は相互作用するというのである。これは,通常,経営学が,環境を所与の要因として,その上で主体である企業のあり方を論じるのとは明らかに異なっている。ポーターは,ここまで言うのかというくらい環境の役割を強調し,当時出たばかりだったダイヤモンド論を述べるのである。論文の末尾で,ポーターは今後の研究課題として4点を述べるが,そのうち一つは「われわれは競争上の結果における環境決定主義と企業/リーダーの選択のバランスをよりよく理解しなければならない」というものである。

 ここまで来ると,経済学なのか経営学なのかわからなくなり,ポーターが産業組織論から研究を始めたことを思い出さざるを得ない。ポーターは,経営戦略を経営者やMBAの学生に指南する立場に置かれているのだが,その理論は,実は,環境という客体と,企業・経営者の選択を,ともに対象として突き放して相互作用を分析する立場なのである。ポーター戦略論を肯定するのであれ批判するのであれ,この認識論的立場をくみ取らねばならない。そして,それに寄りそうなり,それを超えるなりの理論的努力をすべきだろう。表面的なあれこれのことで,あれが弱い,これがないという批判の仕方では,ポーターは超えられないのではなかろうか。

Michael Porter, Towards a dynamic theory of strategy, Strategic Management Journal, Vol.12, Issue S2, 1991
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smj.4250121008

2013/4/24 Facebook
2016/1/5 Google+

0 件のコメント:

コメントを投稿