2018年10月12日金曜日

比較優位・国際分業・直接投資:赤松・小島・村岡説を対比する Comparative advantage, international division of labor, foreign direct investment (2013/11/13)

大学院の講義。テーマは国際分業と競争優位の基礎理論で、それらに関し、まあ、院卒で読んだことないとは言いにくいよねという理論と文献を読む。速水佑次郎の開発経済学、ヴァーノンのプロダクトサイクル論、ポーターのダイヤモンドモデル、ハイマーの多国籍企業論、ダニングの折衷パラダイムなどの著名論文である。
 
まず赤松要・小島清の雁行形態論、これと対比させる形で私の副指導教員、村岡俊三氏の世界経済論を読む。村岡説の知名度は雁行形態論に及ぶべくもないが(失礼な弟子だ※)、小島説と併読すると面白いので特にテキストに採用している。比較生産費を主流派経済学で基礎づけた場合と、マルクス経済学で基礎づけた場合とで、国際分業と貿易、直接投資の説明の仕方が類似してくる点と違ってくる点を対比して考えることができるからである(そう言い張っているのは私だけだという説も有力である)。
 
小島説は要素賦存によって比較優位の構造を、資本蓄積によってその動態を説明する。主流派経済学の常識的な論理である。村岡説は国民的生産性格差によって比較優位の構造を、生産性向上による格差の変動によってその動態を説明する。マルクス経済学において比較生産費を頭から拒否したりせず、受け入れて虚心坦懐に掘り下げるとこうなるという見本である。
 
注目すべきは直接投資論の類似性である。いずれの説でも先進国の比較劣位部門に対外直接投資の動機があり、この部門での対外投資によって途上国の比較優位部門内に特別の競争優位を持った外資系企業があらわれ、輸出競争力を持つようになるというのである。両者は互いを参照しておらず、まったく独立に考案されたようで、発表された時期もほぼ同じのようだ。
 
さらに面白いのは、生産性の位置づけの違いだ。国民的生産性格差説では、もともと比較優位・劣位が生産性格差によって決定されている。先進国の比較劣位部門は生産性が絶対的には途上国の同部門より高い可能性が高いが、先進国・途上国の格差の平均倍率(=2国間の労働交換比率)に対して相対的に低いので比較劣位になる。ところが、仮にこの部門の企業が途上国に直接投資をして、もとの生産性を維持した場合(まあ現実にはそうはいかないが)、途上国では比較優位部門になるうえに、途上国企業より絶対的生産性が高いので、特別に競争優位を持つ。この論理は、すべて生産性の絶対的高さと相対的格差によって一貫して説明できる。一方、要素賦存説ではそもそも比較優位・劣位の決定に生産性は関与していない。ところが、対外直接投資を論じる段になると、海外進出した企業の生産性の高さが指摘される。ここにちぐはぐさがある。
 
マルクス経済学を使うことに伴う様々な問題にもかかわらず(※※)、「国際分業とその動態については、生産性を本質的契機として取り込んだ方がリアルな理論になるのではないか」、というのがここでの含意だと私は思うのである。
 
赤松・小島説であれ村岡説であれ、抽象度の高い理論であるために、現状分析に直結させて振り回すことは好ましくない。しかし、何が国際分業を決めるのかを考える際に、比較生産費に立ち戻って考えなおすことは有益だと私は思う。
 
※とはいえ、以前にアジア政経学会で比較優位について無理くりコメントしたら、隣に座っていた絵所秀紀先生が「川端さんは、村岡先生のところ?」とおっしゃったので、年齢の高い層にとっては知る人ぞ知る存在なのかもしれない(なお失礼か)。
※※マルクス経済学は労働価値レベルで社会構造の深層を解明し、さらに価格レベルで表層を解明するという二重構造になっており、これはなじめる人はなじむが(本質・現象とか深層・表層という重層的決定がOKな人)、なじめない人にとっては絶対になじめない(価格で決まるなら価値では決まらないだろう!と思う人)。ベーム・バヴェルクとヒルファディングの論争以来の難問である。村岡説にも、比較優位・劣位がまずいったん価値・剰余価値レベルで決まり、その上でまた市場価値レベルで決まるという二重性があるので、OKな人にはOK、不可解と思う人には不可解だろう。
 
授業での使用テキスト
 
Kaname Akamatsu, A Historical Pattern of Economic Growth in Developing Countries, The Developing Economies, Preliminary Issue No.1, Institute of Asian Economic Affairs, March 1962.
小島清『雁行型経済発展論(第1巻)』文眞堂,2003年,第1,7,8章。
村岡俊三「マルクス経済学と現代のグローバリゼーション」『経済』2001年2月号,新日本出版社,2001年2月(のちに村岡俊三『グローバリゼーションをマルクスの目で読み解く』新日本出版社,2010年,に所収)。
 

2013/11/13 Facebook
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