2018年10月12日金曜日

高炉メーカーと電炉メーカー Integrated mill and mini mill in the steel industry (2013/5/8)

 鉄鋼業における高炉メーカー(より正確な表現では銑鋼一貫メーカー)と電炉メーカーの違いを経済・経営学的に考えると,簡単なようで,少し難しいところがある。

 高炉メーカーは大量生産に向き,電炉メーカーはより多品種・小ロット生産に向いていることはわかりやすい。また,製品を考えると,高炉メーカーがより高級な製品を特注品も含めて生産しており,電炉メーカーはより低級な製品を汎用品を中心に生産している,となる。ここまではいい。

 しかし,あわせてみると,

高炉:高級品・とくに特注品の大量生産
電炉:低級・汎用品の多品種・小ロット生産

となり,必ずしも簡単ではなくなる。汎用品なら量産すればよく,高級・特注品ならば多品種・小ロット生産することにならないかという疑問がわいてくるからだ。この点に気を遣いながら二つの企業形態を定義した文章はほとんどなく,私もいまだに十分には整理できていない。とりあえず,定義したのが以下の文章である。震災復興関係論文の再録であるが,新日鉄住金の誕生などを踏まえて一部修正してある。

 高炉メーカーとは,高炉法を利用した銑鋼一貫生産,すなわち製銑・製鋼・圧延を垂直統合した生産を行っている鉄鋼メーカーのことである。日本の高炉メーカーは,実質的には新日鐵住金,JFEスチール,神戸製鋼所,日新製鋼の4社である。このほか新日鐵住金は1社の単独高炉メーカーを子会社としている。この子会社分を加えて,実質的には4社で2012年度の日本の粗鋼生産のうち76.7%を担った(『日刊鉄鋼新聞』鉄鋼年鑑』2013年4月19日付)。

 高炉メーカーは鉄鉱石を主要原料としており,高炉による製銑,純酸素転炉と連続鋳造機によるによる製鋼,様々な圧延機による圧延の三つの工程を統合している。これらの三つの工程を備えた銑鋼一貫製鉄所を各社とも1カ所以上保有している。ただし高炉メーカーが同時に電炉を保有している場合もある。高炉メーカーは多様な鋼材をフルライン生産している。銑鋼一貫生産は,一方では最小最適規模が粗鋼年産300万トンに達するので大量生産に適しているが,他方では不純物の少ない製品をつくれるために高級鋼材の生産を行いやすい。例えば日本では自動車の車体外側に用いられる鋼板は銑鋼一貫生産で生産されている。近年,日本などの高炉メーカーは高級鋼材に重点を置いているが,高級鋼材は受注ロットが小さくなるために,生産も多品種・小ロットとならざるを得ない。したがって,高炉メーカーの生産は,多品種・小ロット・大量生産となっている。

 電炉メーカーとは,電炉法を利用した製鋼を行っている鉄鋼メーカーのことである。高炉メーカーが普通鋼と特殊鋼をともに製造している場合が多いのに対して,電炉メーカーは普通鋼鋼材か特殊鋼鋼材のどちらかに生産を集中させている場合が多い。ただし,完全に特化しているとは限らない。また,鍛造品や鋳造品を生産している企業が電炉による製鋼を内部化していることもあり,これも広い意味では電炉メーカーと言えるが,鉄鋼業というよりも最終製品に即した産業に所属されるもので,性質がかなり異なる。普通鋼鋼材を主に生産する電炉メーカーは約40社,鋳鍛造品を除く特殊鋼鋼材を主に生産する電炉メーカーは約10社ある。電炉メーカーには独立系のものもあれば,様々な資本系列に入っているものもあり,高炉メーカーの資本参加を受けているものも多い。

 電炉メーカーは鉄スクラップを主原料としており,電気炉と連続鋳造機による製鋼を行っている。そして,多くの場合,製鋼と,様々な圧延機による圧延の二つの工程を備えた半一貫生産の製鋼圧延所を1カ所以上保有している。普通鋼電炉メーカーは建設用条鋼類を中心に生産しているが,一部鋼板類に製造品種を拡大しているメーカーがあり,これは日本でも世界でも同様である。特殊鋼電炉メーカーは特殊鋼の鋼板・条鋼を製造している。電炉による粗鋼生産は,一方では最小最適規模が普通鋼で30万トン程度,特殊鋼ではさらに小規模となるので多品種小ロット生産を行いやすいが,他方では鉄スクラップを原料とするために品質高級化に限度がある。このため,建設用条鋼類を量産する事業所と,特殊鋼を多品種小ロット生産する事業所に分化しつつ,その中間に様々なバラエティが存在する。その中で日本の東京製鉄は,量産できる高級品としての自動車用鋼板分野での増産と製品高度化をめざしており,注目を集めている。

※川端望・折橋伸哉「東日本大震災における自動車産業・鉄鋼業の被災と復旧」(東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト編『東日本大震災からの地域経済復興への提言:被災地の大学として何を学び、伝え、創るのか』河北新報出版センター、2012年)165-166頁(川端執筆)を改訂。

初稿:2013年5月8日
誤字修正:2013年12月25日
読みやすく改稿:2014年1月8日
2013/5/8 Facebook
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