2018年10月15日月曜日

佐藤創「キャッチアップ型工業化論と鉄鋼業——「ガーシェンクロン vs. ハーシュマン」をめぐって——」『アジア経済』第55巻第4号,アジア経済研究所,2014年12月に関するノート (2015/1/17)

 佐藤創「キャッチアップ型工業化論と鉄鋼業——「ガーシェンクロン vs. ハーシュマン」をめぐって——」『アジア経済』第55巻第4号,アジア経済研究所,2014年12月,8-38頁の抜き刷りをいただいた。

 開発経済学における鉄鋼業の位置づけというのは,わかっているようでわかっていないテーマだ。実は,この問題にいちばん取り組んでいそうなアジア経済研究所の出版物でさえ,鉄鋼業の事例を正面から扱ったものは少ないのが驚かされる。その点で,佐藤創氏が主査をつとめられ,私もタイ・ベトナム担当で参加した「アジアにおける鉄鋼業の発展と変容」プロジェクトは,貴重な試みだったと思う。その成果である佐藤創編『アジア諸国の鉄鋼業:発展と変容』2008年発行(現在はフリーアクセス)は,アジア鉄鋼業全体を視野に入れた唯一の研究だと自負している。

 今回,佐藤氏が,新たな「キャッチアップ再考プロジェクト」の成果として,ガーシェンクロンとハーシュマンの開発研究における鉄鋼業の位置づけとはどのようなものであったのか,それは現実のアジア鉄鋼業の発展経過と現状に即して見ると,どのような示唆を与えるものなのかを明らかにする論稿を公表された。

 この論稿により,理論的には,鉄鋼業についてガーシェンクロンは「後発性の利益を実現できるか,実現するとしたらどのような政策や制度が必要か」という視角から,ハーシュマンは「相互依存性と連関効果の欠如に特徴づけられる低開発経済の中に誘発機構を形成しうるか」という視角から論じていたこと,その二つの視角は相補的なものであることが明らかになった。

 また現状分析としては,鉄鋼業を取り巻く同時代的な条件,すなわち1)政府と国有企業の役割が交代し,民間企業の受容性が増している,2)外資系鉄鋼企業のプレゼンスが増している,3)高炉一貫生産以外の鉄鋼業建設も一定の意義を持つこと,といった条件に即してガーシェンクロンやハーシュマンの示唆を活かさねばならないことが明確にされた。

 私は佐藤氏の指摘に全面的に賛成する。そして,自らこのような論稿を先に発表できなかったことを反省する。

佐藤創「キャッチアップ型工業化論と鉄鋼業——「ガーシェンクロン vs. ハーシュマン」をめぐって——」『アジア経済』第55巻第4号,アジア経済研究所,2014年12月,8-38頁

2015/1/17 Facebook, Google+


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