2018年10月15日月曜日

Ian Goldwin, Geoffrey Cameron, and Meera Balarajan, Exceptional People: How Migration Shaped Our World and Will Define Our Future, Princeton and Oxford, Princeton University Press, 2011に関するノート (2015/1/16)

Chapter 6 The Impacts of Migrationを読んだ。基本的な結論は,移住は受入国,創出国,移住者本人にとってたいへんな利益をもたらすというものだ。むろん,移住に伴うリスクとコストについても目配りされている。グローバルスケールでの移民のインパクト入門として勉強になった。以下はこの章の構成。
*受入国へのインパクト
 +経済的インパクト
  ・成長
  ・賃金
  ・イノベーション
  ・財政的インパクト
 +社会的インパクト
*送出国へのインパクト
 +頭脳流出と頭脳循環
 +送金
*移住者へのインパクト
 +雇用と賃金
 +福祉
  ・健康
  ・教育
 +排外主義と社会的排除
 +脆弱性
  ・低スキル移住者
  ・人身売買
  ・難民

*社会へのインパクトと移住者  
 研究の上で関心をもったのは「頭脳流出と頭脳循環」のところであった。いくつか論点を抜き出そう。
 頭脳流出の例。大卒者の高い割合が国を離れる。ガイアナとジャマイカでは70%超。モロッコ65%,チュニジア64%,ガンビア60%等々。
 アフリカで訓練を受けたがアメリカ合衆国またはカナダに住む医学部卒業者。リベリア43%,ガーナ30%,ウガンダ20%,エチオピア15%,南アフリカ14%等々。
 しかし,「頭脳流出の新しい経済学」に関する研究によれば,大卒者の大量移住は短期的には送出国にコストとなるが,中長期的には利益をもたらすという。移住の見込みがなければ,人々が教育に投資しないだろう。移住の見込みがあればこそ人々は送出国でも高い教育を追求する。国は,人的資本の一部を移住によって失うが,一部は母国に残る。
 フィリピンはアメリカに看護師を送り出しているが,そのことがフィリピンでの教育システム改善をもたらし,それによって国内にも看護師を確保できるようになった。
 移住者は母国に戻り新産業を生み出す。日系人ビザプログラムで日本に渡航したペルー人ミヤシロが母国に戻りチキンレストランNorkysを設立した例。
 帰国者がもたらす「社会的送金」。アイディア,行動様式,アイデンティティ,ソーシャル・キャピタル。
 「頭脳循環」。先進国でキャリアを磨いた学生たちは,循環運動とディアスポラ(海外移住者)・ネットワークの兆候を見せている。
 台湾とイスラエルにおけるダイナミックなIT産業の発展は,アメリカ合衆国とシリコンバレーから1980年代に帰国した移住者たちの成果である。類似のプロセスはインドで現在起こっている。シリコンバレーから戻ったスキルのある労働者たちは,バンガロールのIT産業を発展させるための専門技術と資本を海外から持ち込んでいる。
 ディアスポラの成員たちは母国と海外の専門技術,ファイナンス,コンタクトを結び付ける「橋渡し」の役割を果たすことができる。
 スキルのある国籍離脱者たちは,たとえ帰ってこなくても,送出国の発展を支えるディアスポラネットワークを通して結びつき維持する。1985年から2000年までの間,在外華人は中国に対する直接投資総額の70%を占めた。
 ディアスポラの政治的重要性。ガンジー,エンクルマ,ホー・チ・ミン等々。
 しかし,ディアスポラコミュニティ影響は必ずしも良性のものばかりではない。国連の調査によれば,ヨーロッパにおける過激派ネットワークは,コンゴ共和国において申し立てられた戦争犯罪に責任を負うルワンダのフツ族民兵に財政的また実務的な支持を与えた。
 いくつかの国は,ディアスポラの人々が母国を支えるための政治的権利を拡大している。在外居住者の投票権など。
 スキルのある移住者たちは母国に重大な関心を持っており,多くは「何かを返す」道を探している。

http://press.princeton.edu/titles/9301.html

2015/1/16 Facebook, Google+

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