2018年10月18日木曜日

人材サービス業の新しい役割について:業務再設計と人材育成の担い手へ (2015/7/19)

7月14日の「2015年第3回派遣・請負問題勉強会」(NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンター主催、アドバンスニュース協賛)で印象深かったのは,中村天江さん(リクルートワークス研究所)と私という2人の講演者が,全然別の角度から「労働市場の構造変化の中で人材サービス業には新しい役割がある」という共通の論点を出したことだ。

中村さんの講演「2025年の労働市場を展望する~その時、人材サービス産業は?」には,日本企業でのダイバーシティの遅れの話が含まれていた。それも,表面的にやってもかえってダメだ,業務を再設計しないとできないという厳しい話だった。例えば,ぎりぎりの人数で24時間営業をまわしているような職場があるとする。そこで,「親の介護をしながら働きたい」「子どもの送り迎えしながら働きたい」「少し日本語が下手だがはたらきたい」という人がいても,まったくうまくいかないことは明らかだ。会社は,人手が余っていれば「そんな人は来なくていいから」でいばっていればいいのだろうが,人材不足になってくると,こうした人たちに働いてもらえないがために経営が行き詰まることになりかねない。このボトルネックを突破するには,業務を再設計して,こうした制約条件を持つ人も働けるようにするしかないのだ。これは人材不足にあってはきれいごとではなく目の前のソロバン勘定の問題だ。そして,今後ますますきれいごとでない常時の課題になる。というのは,超高齢化により,親の介護を抱えながら働く人の割合はますます増えるからだ。

これが人材サービス業の役割の変化に関わる。今まで人材サービス会社は,情報の非対称性という市場の問題を解消する,仲介業として機能してきた。しかし今後は,人材を派遣したり紹介したりする先の企業の業務再設計を提案しながら人を送り込むことになるべきというのだ。これは,目からうろこであった。

一方,私の講演「人材獲得競争における世界・中国・日本~IT産業で起こっていること」では,企業内労働市場,そこでの長期雇用,年功序列の縮小が必然になる情勢下で,それにかわる職業別労働市場,つまりスキルをベースに転職できる人の世界を作って行こうと主張した。それによって,不必要に二次的労働市場,つまりスキルがないとみなされて交換可能な単純労働力として取引される世界に落とされる人を防ごうというものだ。もちろん,二次的労働市場を可能な限りホワイトにする努力も同時並行で必要だ。

職業別労働市場は単なる規制緩和,規制撤廃では生まれない。縮小する企業内訓練にかわり,労働者を使用する企業の外に教育・訓練のシステムがなければ機能しないのだ。転職しても有効な技能については,企業は企業負担で育成しようとはしないからだ。私はこの情勢下では,学校教育における職業教育の増加が生涯教育を含めて必要だし,業界単位の技能訓練・認定システムも必要だと話した。人材サービス業も,仲介だけでなく,教育・訓練をして人を紹介し,派遣し,キャリア形成を支援する機関になることが必要だと思う。当日はここまで話したが,後で派遣会社の役員さんと話したところ,まずは派遣先でのOJTを促進し,その結果を評価し,認定する役割からはじめるのがよいと思った。市場を担うだけでなく,教育・訓練を担うのだ。そこを外すと,二次的労働市場での仲介役になってしまう危険があるのだ。

中村さんは,派遣・紹介先の業務再設計を担うという点から,私は,教育・訓練を担うという点から,人材サービス業の新しい役割を指摘した。これは別の角度から言うと,人材サービス業は,規制改革にあたっての主張の力点を変えた方が良いということを意味する。「規制撤廃」の議論や,「市場メカニズム」のよさを過度に強調する議論に乗ろうとするのは,適切ではないのではないか。「多様な働き方を認めよ」というのはまちがってはいないが,ただ個人が働き方を選ぶといういささか牧歌的なイメージで伝わってしまう。本当に要請されているのは,「企業を超えた業務再設計によるダイバーシティを促進する」「企業を超えて人材を育成し,認められるように支援する」役割ではないか。未来を拓こうとするならば,そのように自己主張して規制改革を求めるべきではないだろうか。

「人材不足にどう対応?中村、川端両氏が講演  第3回派遣・請負問題勉強会」アドバンスニュース,2015年7月14日。
http://www.advance-news.co.jp/news/2015/07/post-1607.html

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